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「口上(こうじょう)」という”演目” お客にとっても襲名は喜び 2

襲名披露興行の演目にかならず入っているのが「口上」。いろいろな役者が一堂に会し、並び、襲名する役者へはなむけの言葉を述べる。それぞれ役者の個性が出て、面白いのなんの。

執筆者:五十川 晶子

口上にもいろいろある

襲名披露興行につきものはなんといっても「口上(こうじょう)」。一つの演目として、チラシにも掲載される。襲名披露らしい演目の一つである。これはもともと「申し立て奉る」という意味の言葉といわれる。お客に、御贔屓に、新しい名前とその襲名への「意気込みを申し上げる」。
口上には、襲名、追善、引退、初舞台などいろいろなケースがあるが、襲名の口上はその中でも最も華やかなものといえるだろう。


お殿様気分を味わえる?

柝が鳴るとお囃子が始まり幕が開く。舞台にしかれた緋毛氈にずらりと役者達が並んで座っている。全員家紋をつけた裃姿、扇子を前に平伏している。

座頭を筆頭に、それぞれの役者が順番に、襲名する役者へお祝いの言葉を述べる。その役者の先祖とのかかわりや、共演した思い出、楽屋ネタから酒癖?まで、役者のいつもと違った一面がわかるのがうれしい。また思いがけない役者同士の交流も分かる。(最近ではたいてい、菊五郎丈、左團次丈が楽屋ネタを披露してくれる)
また襲名する役者がそのときちょうど週刊誌ネタなどになっていたりしたら、仲の良い役者に茶化されてしまうのもお約束。襲名で緊張した面持ちだった当の役者の表情がしばし崩れ苦笑する。そしてお客はなんとなく得した気分になるのである。

ビッグネームの襲名が続く

例えば平成以降も、
三代目中村鴈治郎
四代目中村梅玉
九代目中村福助
二代目尾上辰之助
五代目尾上菊之助
十五代目片岡仁左衛門
など、襲名が行われ、2001年には十代目坂東三津五郎が誕生したのは記憶に新しい。さらにこの4月二代目中村魁春が、5月には四代目尾上松緑が誕生する。来年以降も襲名はゾクゾクと続く。例えば現・市川新之助が市川海老蔵へ、中村勘九郎は中村勘三郎を襲名する予定だ。

襲名には興行会社の経営的必然性という側面がもちろんある。役者にとってはまず、伝統を継承するという使命がある。
では観客にとって襲名とはなんだろうか。

役者が一つ階段を上がっていく、成長していく、変わっていくその過程を、観客もリアルタイムに目撃していくことは、襲名が観客を前提とする劇場で披露される以上、その重要な意義の一つであると思う。それまでの名前でその役者の舞台を観てきたそのイメージの蓄積の上に、顔も姿も同じだが別の名前で生まれ変わった役者の新しい舞台上の人生を観る。そこに先代のイメージも重なる。一つの名前が襲名されるたびに、別の人間の人生が積み重なり、古い名前はそのたびに新しい肉体を獲得する。襲名によその名前は、まったく別の人格を持ち始める。

責任の重さに押しつぶされそうになりながらも役者が確実に一つの殻を脱いでいくその努力の過程に立ち会うのも、観客の役目だ。その並々ならないエネルギーを舞台に発見したとき、その演目の内容やストーリーを超えた感動を覚える。
そして劇場を後にするとき、自分自身もそのエネルギーをお裾分けしてもらったことに気づく。ちょっとだけ、生まれ変わったようなすがすがしい思いを味わう。
御贔屓役者ならなおさらだ。一緒に「再生」するような気がすることもあるだろう。幼虫が脱皮し、殻を脱ぎ、さなぎを破り、力強く羽を広げて飛び立っていくように、観客もその姿に自分を重ねてみたくなるだろう。

襲名披露は、観客にとって「再生」を擬似体験する行事なのかもしれない。


関連リンク
歌舞伎役者はなぜ襲名するのか 1


歌川国安 三代目尾上菊五郎の御名残口上・七代目市川団十郎の差添口上・1825(文政8)年
※「襲名披露」とは異なるが「口上」のイメージの参考として



4月と5月の襲名披露のチラシ
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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