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雪が降る。雪が鳴る? 歌舞伎と雪の表現に注目

凍った雪の解け始めた道路は逆にシャーベット状で汚いんですが、歌舞伎では雪はあくまでも“美”を追求します。そして“音”がします。雪の音……。

執筆者:五十川 晶子

雪で正月休の足を奪われたり、帰省先から帰れなかった人もいたのでは。降雪の翌日の晴れた空は、いつもより妙にすがすがしく、埃も静まりあたりが浄化されたような気がします。凍った雪の解け始めた道路は逆にシャーベット状で汚いんですが。

歌舞伎では雪はあくまでも“美”を追求します。雪を用いる舞台では、上からは四角形の小さな紙製の雪片が振って落され、下には白い雪布が敷かれ、花道にも敷かれることがままあります。また後見・黒衣の衣裳も白くなり、雪後見(ゆきごうけん)・雪衣(ゆきご)とよばれます。

最もユニークなのは、雪に“音”があること。舞台下手(客席から向かって左側)の黒御簾ではいわゆる“効果音”が聞こえてきますが、雪は大太鼓で表現します。

普通現実では雪が積もると、周囲の音を吸収するのか、妙に世間が静かになったように思えます。歌舞伎では綿を詰めたバチで太鼓をたたきます。雨の音は細かくドロンドロンと鳴りますが、雪はもっと深くこもった音でドンドンドンと鳴ります。屋根や樹木に積もった雪が時にどさっと落ちる音まで表現してしまいます。最初は「雪に音?」と不思議な気持ちがしますが、一度聴くと雪のイメージと切っても切れない音として印象に強く残ります。

雪の白い美しさと音が表す静けさ。これらとともに表現されるのが、雪の「寒さ」。雪の場面として有名なのは、
『仮名手本忠臣蔵』11段目討ち入りの場面。
『恋飛脚大和往来』「新口村」の男女の道行き。
『奥州安達原』「袖萩祭文」の親子再会のシーン。
『佐倉義民伝』、『雪昨夜入谷畦道』もありますね。『中将姫』では姫が継母に雪責めされるというシーンもあります。ドラマを盛り上げる、悲劇を強調する、そんな効果を持つようです。

雪の情景とともによく見ていくと、下駄の歯に入りこんだ雪を落すしぐさ、傘につもった雪を払うしぐさなど、役者さんの細かい芸にも雪を表すものも少なくありません。積もった雪の上を歩いているのか、解けかけた雪の上なのか。よーく注目して観てみるのも面白いと思います。

舞台の上に、意外なほど、リアルな昔の日本の雪景色が再現されてくるはずです。

筆者自身は、昨年のコクーン歌舞伎『三人吉三』のラストシーンで、3人が抱き合いながら倒れこみ、その上に大量の雪が降り積もり姿を隠してしまう、まるで3人の罪を浄化するかのように降りつづける雪の場面が印象に残りました。みなさんはいかがですか。
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