いきなり私事ですが、筆者は昨年偶然”三之助”をまとめて見かけたことがあります。夜の部がはねた後、歌舞伎座脇の楽屋出入り口で三人がバラバラに出てきた時でした。
長いコートを翻しさっそうと銀座方面へ消えていく辰之助、連れとタクシーを拾ってあっという間に消えてしまった新之助、数人と連れ立って銀座方面へ歩く菊之助。それぞれそのオーラに圧倒されてしまいました。
特に菊之助は、夜の闇の街中で一人スポットを浴びているかのような肌の透明感と匂い立つようなたたずまい。思わず見とれて足を止めてしまい、夢心地で帰途に着いたのを思い出します。まるでおいしーい日本酒を一口含んだその瞬間のよう。
『籠釣瓶』という芝居で、田舎者の次郎左紋衛門が江戸・吉原の美しい花魁・八つ橋を見て「帰りたくなくなった」と嘆く気持ちがよーくわかりましたね。ふらふらついていきたくなる美しさ。それは時代を問わず、役者であることの最大条件の一つなんだ、と再認識した夜でした。
5月の歌舞伎座は瀬戸内寂聴『源氏物語』の須磨・明石・京の巻でした。光の君を新之助、頭中将を辰之助、紫の上を菊之助が演じ、明石の君を福助、朱雀帝を菊五郎、桐壺帝の霊・明石の入道を團十郎で固め、三津五郎も蛍兵部卿宮で登場します。5月は毎年歌舞伎座は「團菊祭」で、團十郎親子と菊五郎親子を中心に菊五郎劇団を中心とした役者が揃います。
5月歌舞伎座の『源氏物語』は、昨年の團菊祭で平成の三之助を初めてフィーチャー。チケットは前日売りきれ、当日券や一幕観のチケットも早朝から長蛇の列でなかなか入手しにくかったことでも話題になった。その”三之助”、ちょいとチェックしておきましょう。将来の歌舞伎を担う花も実もある若手です。
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