歌舞伎/歌舞伎関連情報

より深い悲劇を追求して 名作「熊谷陣屋」を見逃すな。(3ページ目)

10月の歌舞伎座の舞台では、「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」の「熊谷陣屋(くまがいじんや)」の幕が上演される。

執筆者:五十川 晶子

●戦意高揚の芝居?
江戸時代、奢侈禁止などさまざまな規制を受けながらも生き残ってきた歌舞伎。だが第二次世界大戦後の占領軍による統制には屈するしかなかった。

総司令部は日本の占領中に歌舞伎の検閲を徹底して行った。上演に当たって松竹が歌舞伎脚本を全文英訳して提出した資料がワシントンの国立公文書館に残っているという。『菅原伝授手習鑑』の「寺子屋(てらこや)」のように、総司令部が強権発動して上演を停止させたものも中にはある。むろん封建的忠誠心をあおるような芝居や、戦意高揚の内容は「上演まかりならぬ」というわけである。

「熊谷陣屋」もその筆頭であった。しかし「寺子屋」も「熊谷陣屋」も、他の”戦意高揚”演目にしても、歌舞伎の傑作中の傑作なのである。武家社会や儒教思想を踏まえながら観るべき芝居であるし、またそれらを知らない現在の我々すら感動するような層の厚い「人間ドラマ」なのである。だがそのような理由が当時の日本で通用するわけはなかった。

  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます