歌舞伎/歌舞伎関連情報

より深い悲劇を追求して 名作「熊谷陣屋」を見逃すな。(2ページ目)

10月の歌舞伎座の舞台では、「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」の「熊谷陣屋(くまがいじんや)」の幕が上演される。

執筆者:五十川 晶子

●絶望を強調する歌舞伎
幕切れは、法体(ほったい)の熊谷が「十六年は一昔。ああ夢だ、夢だ」と嘆き花道を引っ込む。人形浄瑠璃の演出では、熊谷は最後に髻(もとどり)を切り妻の相模ともども出家する。歌舞伎では、江戸末期の役者・九代目市川團十郎が剃髪という演出を加え、相模を伴わず一人で出家する型がある。

人形浄瑠璃の演出のように相模と二人で出家する方が、観ている側としてはどこか安心感や救いを感じると思うのだが、たしかに歌舞伎の演出の方が、妻を顧みる余裕のないほどの絶望と無常が強調され、感動は一層奥深いものになっている。

洗練された劇的効果を追究する昔の役者達の努力に思いを馳せながら観るのもまた歌舞伎の楽しみの一つだろう。

写真は七月のもの
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