世界遺産/中国の世界遺産

蘇州古典園林/中国(4ページ目)

マルコ・ポーロが「東洋のヴェネツィア」と称した水の都、蘇州。豊富な水を利用して自然美を再現したその庭園は、「江南の庭園は天下一、蘇州の庭園は江南一」と絶賛された。今回は水の楽園に花開く天下の名園「蘇州古典園林」をご案内します!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

蘇州最大の古典園林、拙政園

蓮と柳が美しい拙政園の池。ほとりには様々な花や木が植えられており、四季折々に花や新緑、紅葉などが楽しめる

蓮と柳が美しい拙政園の池。ほとりには様々な花や木が植えられており、四季折々に花や新緑、紅葉などが楽しめる

16世紀はじめ、明の高官・王献臣は政治の世界を追われ、蘇州の地に引きこもる。表舞台を離れた王献臣は、伝説の桃源郷を夢見てその庭に自然を集め、拙い(つたない:愚かな)者が政(まつりごと)を行う園、拙政園と名づけて余生を送った。

蘇州の古典園林中でも最大を誇る庭園ながら、その半分以上は池。多彩な建築様式を見せる趣ある建物が水面に映え、そのほとりには古木や四季折々の花が咲き乱れ、とても花やかな風情を見せている。

全体は東園、中園、西園の3景区に分かれており、蘇州のあらゆる造園技法がここに詰め込まれている。歩き回っていると、たとえば庭園の端にたたずむ東屋の背後に川が流れていて、その狭い狭い空間にひどく惹かれたりする。

街歩きをしているとふと思わぬ光景に出会うように、この庭園を歩いていると思わぬ場所に思わぬ光景を発見する。できることならツアーではなく自力で、お茶と甘いお菓子でも持って、ゆったりと訪れたい。地元の名士なのだろうか、老夫婦が、ツアー客がまったく行かないようないちばん奥の建物で、ゆったりとお茶を飲んでいた。何も語らず、ただお茶を飲んでいた。とてもすてきな夫婦だった。

ちなみに、拙政園は『紅楼夢』の大観園のモデルともいわれている。現在一部は博物館になっている。

中国四大庭園、留園

中国四大庭園のひとつ、留園。園内では数か所で民族衣装を着た女性によるニ胡や笙、楊琴など民族音楽の演奏が行われている

中国四大庭園のひとつ、留園。園内では数か所で民族衣装を着た女性によるニ胡や笙、楊琴など民族音楽の演奏が行われている

留園は庭園が4つに分割されていて、それぞれまったく趣を変えている。東園が住居、西園が山、中園は河川、北園は田畑を表しており、それぞれを回廊で分けている。

単に景色が楽しいだけではなく、回廊自体も留園法帖と呼ばれる彫刻や、同じ形はひとつとしてないといわれる漏窓越しの景色、あるいは漏窓から差し込む光で楽しませてくれる。

池を見ながらポケッとしていると、どこからともなくニ胡の音が。一歩一景といわれるほど歩くたびに変わる景色、その景色が四季折々で映り行くだけでなく、花が開き、葉が落ち、鯉が池を揺すり、風がそよぎ、雲が水面を流れ、傾く太陽が色を変え……一つひとつの時間がとても愛おしくなってくる。
  • 前のページへ
  • 1
  • 3
  • 4
  • 5
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます