へい、いらっしゃい。今日はどのように結いましょう。えっ、引退した横綱兄弟の弟みたいにしてくれ?
若旦那、冗談はなしですよ。たしかにあれは今年の髪型演芸大賞の髪結い部門、理容師部門、カリスマ美容師部門の三冠王も夢じゃない勢いですけどね。

しかしあの兄弟もよくもめますねぇ。夫婦ゲンカは犬も食わないそうですが、兄弟ゲンカはちゃんこにしても食えないというところですか。兄弟の関係というのもむずかしいもんです。そういえば「鼠穴」という落語がありましたな。


鼠穴前半・兄を見返そうと

遊びがすぎて田畑をなくした竹次郎、仕方なく江戸で商売をしている兄のところにいくと、兄は自分で商売をしてみろ、と元手を貸してくれた。竹次郎は喜んで帰り道で包みを開くと三文しか入っていない。バカにするなと怒り、兄を見返してやろうと商売に励んだ。

その甲斐あって十年後には蔵を三つ持つ立派な店の主人だ。それで風の強いある日、火事が心配ながら蔵の鼠穴をふさいどくように言い残して、兄のところに三文と利息として二両を返しにいった。

ところが鬼のようだと思っていた兄貴が喜んで酒をだし、あの時もっと貸すとムダ遣いしかねない、そう思ってわざと三文だけにして、儲けてきたらもっと貸してやろうと思ったんだ、恨みに思っただろうが勘弁しろと本心を語る。竹次郎もそれを聞いて感謝するんだ。


シャイでも落語でいい噺を語れる

兄弟でも本当の気持ちはいわないとわからないということですか。あの横綱兄弟に当てはまるかどうかはわかりませんけどね。

本当の気持ちをなかなかみせない、といえば話題の戯作者・クドカン、宮藤官九郎もそうですな。

『木更津キャッツアイ』でぶっさん(岡田准一)が仲間に病気で死ぬことを告白しても「ビール、大か中か小か早く言え」みたいにみんなまともにとりあわない。本人がいなくなったところで「マジかよ」となる。普通だったら重要な問題を遊びにしてはぐらかすけど、それが妙なリアリティになってます。

本人もシャイだそうで、役者としてはラブシーンが苦手、親に結婚の報告をするのを留守番電話ですまそうとしたとか。

ところが『タイガー&ドラゴン』だと幼い頃から笑いを忘れて生きてきた虎児(長瀬智也)と家族に対して素直になれない竜二(岡田)の対照的な心情から、人と人とのつながりということが浮かび上がってきてます。これは落語の笑いの基本が「人間のおかしさ」で、いままでのクドカン脚本でまわりくどく描いていたことを直接的に表現していて、その落語の形式を借りてきているからクサイところまで描けるんでしょうな。