子育て事情/子育て事情関連情報

子どもを殺す母にならない為の「一線」とは(2ページ目)

秋田の連続児童殺害事件で世間の注目を浴びた「畠山鈴香」。現代の「母親の闇の部分」を凝縮した事件を糸口に、子どもを愛せない母の心理を分析した猪熊弘子さんの新刊をご紹介します。

河崎 環

執筆者:河崎 環

子育てガイド

子殺しは他人事じゃない?

子殺しは他人事ではない?
鈴香被告が子どもの手を振り払った瞬間を、他人事として断じられるだろうか
「疎(うと)ましくなったので、橋から落とした」という鈴香被告の供述。感情の起伏が激しく、不器用な生き方。生活保護を受けつつ、ネグレクト(育児放棄)を疑われる生活の詳細。これらが感じさせるものは、決して恵まれているとはいえない人生があるとき爆発し、そこから漏出した「下流側」の事情である。

しかし、そんな舞台仕立てよりも世の「普通の」母親たちをとらえたのは、「子育てが面倒だ」「子供がうとましい」という心理だった。子育てをする誰もが、体調が悪かったり気持ちがザラザラしていたりで、何かの拍子にふとそんな心理に陥ったことがあるのではないか。その感情を知っているからこそ、橋の上で抱きつこうとした娘をスズカが振り払った瞬間を決して他人事と断じられず、ある種のシンパシー(共感)を持ってしまう。そして、「スズカと自分との違いは何だろう」と鈴香事件を追ってしまうのだ。

「自分もスズカみたいになってしまうんじゃないか」

母親の持つダークサイド
「スズカは、母親の持つダークサイドの総合商社」(名越氏)
猪熊氏が抱いた疑問、「なぜ世の母親たちがこれほどまでに鈴香に反応するのか」に対して、精神科医・名越康文氏は『なんで子どもを殺すの?』の中でこう分析する。自分の子どもを殺してしまった実在の母、畠山鈴香被告は、「母親の持つダークサイド」「妻、母といった拾いきれない人間の裏側の部分、自分の内面の残酷な見たくない部分を、その名前の下に集約したような存在」なのだと。鈴香は、もはや実体とは乖離した記号「スズカ」となって、母親たちの子育てへの不安を凝縮した存在になったのだと。

母親たちは、「過去にあった自分の人生の岐路の反対側にある、薄暗いもう一つの人生の風景」であるこの事件に「吸い寄せられていく」。だから、世の母親たちはこの事件から目を離せない。名越氏の回答の明快さは、母親たちのモヤモヤした気持ちにくっきりとした輪郭を与えてくれる。

>>「知識の量と子殺しをするかどうかは関連している」/母親達が怯える悪夢>>
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