子殺しは他人事じゃない?
鈴香被告が子どもの手を振り払った瞬間を、他人事として断じられるだろうか |
しかし、そんな舞台仕立てよりも世の「普通の」母親たちをとらえたのは、「子育てが面倒だ」「子供がうとましい」という心理だった。子育てをする誰もが、体調が悪かったり気持ちがザラザラしていたりで、何かの拍子にふとそんな心理に陥ったことがあるのではないか。その感情を知っているからこそ、橋の上で抱きつこうとした娘をスズカが振り払った瞬間を決して他人事と断じられず、ある種のシンパシー(共感)を持ってしまう。そして、「スズカと自分との違いは何だろう」と鈴香事件を追ってしまうのだ。
「自分もスズカみたいになってしまうんじゃないか」
「スズカは、母親の持つダークサイドの総合商社」(名越氏) |
母親たちは、「過去にあった自分の人生の岐路の反対側にある、薄暗いもう一つの人生の風景」であるこの事件に「吸い寄せられていく」。だから、世の母親たちはこの事件から目を離せない。名越氏の回答の明快さは、母親たちのモヤモヤした気持ちにくっきりとした輪郭を与えてくれる。