「愛されるパパ」のために、『OCEANS』立ち上げへ
単発ではなく、継続性のある愛を大事にする男、子どもや奥さんといる時間を大事にしたい男、そういうのがカッコいい」と語る大久保氏 |
大久保編集長:LEONを作りながらも、「30-40代の男性誌って、なんかリアリティがないな」という感じでした。モテ系オヤジ男性誌って、どれもターゲットがズレている。30-40代の他の男性誌のイメージって、例えば石田純一さんとかですよね。でも彼は50代。彼の息子のいしだ壱成さんが、30代そろそろ半ば。つまり、実際の30―40代とは親子くらい離れてない?僕ならそんな雑誌、読まないよ、と。
10-20年前の恋愛観って、パーティーなどの華やかな舞台装置と、ちょっとアブないくらいのスリリングな要素が絡まっていましたよね。でも、今は「セカチュー」の純愛的な世界観に代表されるような、身近な愛が求められているな、と。身の回りのラグジュアリー感に消費者の意識が向いているんですね。
2006年は世界的に「LOVE」がテーマなんです。モードの世界に目を向けても、例えばルイ・ヴィトンやカルティエがチャリティをしたり、エルメスがどんぐりの木を植えるキャンペーンを張ったり、途上国/先進国の二極的パラダイムから全世界的なLOVEへと、視点がシフトしています。ドルチェ&ガッバーナやヴァレンティノのショーではランウェイに子どもが出てきたり、グッチでは子どもを抱いた写真の広告が展開されたり。トレンドとか素材の良さというキーワードの他に、温かみやぬくもりという「LOVE」なメッセージも出てきた。
ガイド:「LOVE」はカッコいい、という潮流ですね。
大久保編集長:サッカー選手でも、ちょっと前まではプレイボーイがもてはやされたけれど、今は中村俊輔や小野選手、宮本選手のように、子どもや奥さんがいて、大切なことを守りながら、仕事であるサッカーに打ち込む姿にじんとくる。男の生き方やありかた、「カッコいいマインド」は、10年前とは変化しているんです。例えば木村拓哉さんや中村獅童さん、ミスターチルドレンの桜井和寿さん、トータス松本さん、江口洋介さん、みんな子どもとの時間をスゴく大切にしながら、いい仕事をしている。
女房、子ども(がいるの)を隠して「モテるオヤジ」ではなく、自分の家族に「愛されるオヤジ」がいいなって、そう考えました。みんな、自分のパパがカッコいいのは嬉しいし、奥さんだって自分の一番大切な人にかっこよくなって欲しい、そう思うでしょ?愛されるパパって、みんなにとって嬉しいんですよ。
だからOCEANSのコンセプトでは、「モテパパ」「モテ家族」がテーマでもあるんです。同じ「モテ」を冠にしているけれど、100人の不特定多数の女性にモテるのを目論む「モテオヤジ」とは全く違う。一番大切な人にモテたい……つまり愛されたい、という動機です。誰だって好きな人ができたら、その1人にモテる努力をするでしょ?単発ではなく、継続性のある愛を大事にする男、子どもや奥さんといる時間を大事にしたい男、そういうのがカッコいい。
「モテパパ」とブランド観
ガイド:誌面では高級ブランド品がたくさん紹介されています。OCEANS的パパにとって、ファッションやブランドの位置づけは?大久保編集長:今の30代って、バブル崩壊後の厳しさを身につけて生きているんですよね。社会に出てみると、まったくもって不況。それを乗り切ってきた世代だから、「(周りを不快にさせないよう)基本を押さえた上で」というしっかりした感覚を持っている。だから、現代のブランド観というのは高級ブランドに限らない。暮らしの中の何もかも全てがブランドです。コーヒー飲むのに、スタバにする?タリーズにする?CD買うのに、HMVにする?タワレコにする?って。ガイ・リッチーとマドンナのカップルなんて、ドルチェ&ガッバーナやアルマーニを着こなすけれど、休日の家族と過ごす日常着にはGAPも着ている。ブランドを日常になじませるメンタリティには、感じるものがありますね。
モテるために高級ブランドを身に着けるなんて、ちょっと恥ずかしいしカッコ悪い。相手を不快にさせない精神性、気持ちよさとかコンフォート感がカッコいい。ラグジュアリーとはゴージャスなことじゃなくて、気持ちいいことだから。モテパパ、モテ家族っていうのは新種じゃなくて、今までの「家族がいることを隠してモテるのが男」みたいな潮流へのアンチ。家族でカッコよくなろうよ、モテようよ、ってことです。これ、テーマとしては普遍的でしょ?
「家族の絆」 ~勝負どころは、土日の濃さ!
ガイド:OCEANS的パパは、いい仕事をして、家族との時間も大切にしているようです。仕事が忙しいと、いきおい家庭で過ごす時間にも影響が出ると思うのですが、そのあたりはどうマネジメントするのでしょうか?大久保編集長:モテパパにとって、家族や子どもと過ごす時間は物理的な時間の長さではなくて、密度。子どもは、物理的に長い時間をいつも一緒にいたからといって学ぶわけではなくて、親の背中を見て学ぶものも大きいですよね。平日は、子どもたちにとって教育を受けるための時間。だから、土日にいかに濃密な時間を過ごすか、そこがモテ家族の勝負どころだと考えています。
例えば土曜日のドライブ一つとっても、モテパパなら家族がいてもファミリー用のミニバンではなく、スポーツカーに乗りたい。だから、家族で乗れるスポーツカーを考えようよ、という特集を組んだりしています。自分のものは我慢する団塊世代の男、女房子どもに内緒で「モテるモノ」を買う男、その時代が過ぎて、自分が好きなものを家族と一緒に買うパパがいいんじゃないか。自分が欲しいモノと、家族が欲しいモノの間で、どう折り合いをつけるかというのも、テーマです。
ガイド:「家族で過ごす」を意識した消費のあり方ですね。
大久保編集長:「絆目線」というテーマも考えました。例えば時計一つ買うにしても、最近の時計って高価じゃないですか。だから、「いつか息子に受け継ぐ時計」や「妻と共有する時計」を提案したり。モノを買うことにも家族の絆を折り込めるんです。
六本木ヒルズや表参道ヒルズも、「家族で行く」がテーマになっています。家族で着るラルフ・ローレン、トッズ、アルマーニ、ディーゼル、ギャップ、ヒステリック・グラマー、ベネトン、etc。色々なテイストのブランドが「家族の消費」に注目している。ラグジュアリーはコンフォータブルだ、ってね。だからOCEANSでは、高級路線ファッション誌の定石に反して、「誌面にいかに生活感を出すか?」がテーマですよ(笑)。