最近、数学のチカラが重視されるのはどうして?

そもそも哲学と根を同じくする数学は、難解な印象から親世代も苦手意識が強い、かも。
そもそも哲学と根を同じくする数学は、難解な印象から親世代も苦手意識が強い、かも。
その名前を聞いただけでアレルギーが出るという人もいる、「数学」。学生時代に胃が縮む思いをさせられ、社会人となればもうオサラバと思いきや、表計算ソフトに「関数」なんて出てきて、そんなバカなと頭を抱えた方もいらっしゃるのでは?

そもそも哲学と根を同じくする数学は、難解な印象から親世代も苦手意識が強い、かも。数学界のノーベル賞といわれるフィールズ賞受賞の広中平祐さんとか、開催のたびに世界中の天才少年少女の精鋭が参加する数学オリンピックとか、ガイド本人を含め一般ピープルにとっては「数学=特殊才能」のイメージさえあるのです。

ところがこのところ、日本のコドモの学力をめぐる議論では、数学のチカラの重要性が急浮上。「大学生が分数計算ができない」という意見に代表されるゆとり教育批判、大手学習塾は算数の授業時間を倍増、先日放送のTV番組『トリビアの泉』では、「大学受験で数学を受験した人は、そうでない人に比べて年収で100万円違う」なんてトリビアも紹介されていました。さらに企業は理数系採用を積極的に強化する傾向があるとか。数学力が大事なのはなんとなく分かるのですが、なんだか急に数学、数学と言われ始めた気がしますね。

実はこれ、PISAショックの余波。2003年のPISAという国際的な学力到達度調査の結果、日本のスコアが3年前(2000年)のスコアに比べて下がったというので、発表以来大騒ぎとなったわけなのです。

PISAってなに?

PISA「生徒の学習到達度調査」とは、OECD加盟国の教育システムの結果を学習到達度という国際的な基準で調査するもの。1997年に開始され、3年ごとに実施される調査によって、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーという主要3分野を調査します(2003年度より、問題解決能力も追加)。最近の調査結果であるPISA2003には、OECD加盟30カ国を含む41カ国・地域の15歳児(高校1年生に相当)、27万6000人が参加しました。

なぜ、OECD経済協力開発機構が、教育分野で調査を行うのか?疑問に思われるのも、もっともです。OECDには、社会経済や労働市場を分析するにあたり、その国の教育制度と社会との相互の影響を知りたいという意図があります。PISAは、わが国では文部科学省が管轄省庁となり、調査の実施、モニタリング、分析、報告書作成などを行っています。

日本の子供の学力ってそんなに落ちたの?

2000年調査では読解力、2003年調査では数学的リテラシーに重きがおかれました。この2つの調査を比較すると、日本は

●数学的リテラシー 1位(2000年)→6位(2003年)
●読解力 8位(2000年)→14位(2003年)

と、確かに順位としては共に落ちています。この結果を受けて、2005年5月の中央教育審議会の審議では、「成績中位層が減り、低位層が増加」、「学力は低下傾向にある」と報告されました。

しかし、実際には数学的リテラシー全体の平均得点は534点で1位の香港(550点)と16点差に過ぎず、また2点刻みほどの僅かな差で1位から10位までの国が並んでいることを考えると、日本は香港・フィンランド・韓国・オランダ・リヒテンシュタインと並ぶ、1位グループであると言えます。

つまり、統計的には決して日本の子供たちの数学力がたった3年で「凋落」したなどということではないのです。数学的リテラシーの調査結果においては、「技術立国」としてのプライドもある日本としては、トップの座から転げ落ちた(!)ということが少々ショッキングに受け止められすぎたのかもしれません。

ただ、東大学校臨床総合教育センターによれば、1982年から2002年までの20年間で日本の小学校の算数が10.7ポイント低下したという研究も報告されています。日本の子供の学力が転換期にあるということは、確かだと言えそうです。

これからの子供たちには、どのようなチカラが必要になるの?

このOECD-PISAは、学校のカリキュラムをどれだけ理解したかだけではなく、社会生活に必要な知識や技能をどれだけ身に着けているかも調査の対象としています。 数学力でなく「数学的リテラシー」と表現されることからも分かるように、PISAが求めているのは、従来の読み書き計算能力や、単なるカリキュラムの習得以上の能力なのです。それは「生きる力」、大人として生きていくための知識と技術であり、生涯を通して獲得していく「知恵」のようなものかもしれません。

では、現在注目を浴びている「数学的リテラシー」とは、どのようなチカラなのでしょうか?

・ものごとを抽象化して考えられるチカラ
・一見バラバラに見えるものごとから、パターンを見出すチカラ
・具体的な証拠を集めて推論する、論理的に考えるチカラ
・ものごとの間の関係をつきとめるチカラ

これらは、決して机上の勉強だけで獲得されるものではないでしょう。同時に、机の上で子供たちが獲得できる豊穣な知の世界もまた、否定されるべきではありません。机の上であろうが部屋の外であろうが、子供たちが得るものは全て子供たちの世界を広げる糧となるのですから。

2003年のPISAで最優秀の成績を収めたフィンランドは、かつて子供たちの学力が底を打ち社会問題化した時代に、日本の学校システムをお手本として、教育改革に乗り出したそうです。その間日本では、詰め込み教育への反省からゆとり教育へ、そしてその反動でアンチゆとり教育の潮流へと、迷走してきたようにも思えます。

日本が、海外に向かって自国の教育システムを誇りを持って語れるようになる時代が来るよう、大人たちが次の世代のために「教育をあきらめない」ことが、ひょっとすると子供たちにとって一番の教育効果があるのかもしれません。

● PISA(OECD生徒の学習到達度調査) 2003年調査(文部科学省)
OECD/PISA、教育大国フィンランドと日本の課題(OECD東京センター2005年講演)pdfファイル

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