奈良市・女児誘拐殺害事件の容疑者逮捕を機に、性犯罪の再犯を
防止するべく、性犯罪前歴者の情報把握・公開が論議されてきた。
事件から2ヶ月余で発表された、警察や関係省庁の当面の着地点とは。
そして、賛成・反対共に噴出する中、子どもを持つ親たちは
どう発言してきたのだろうか。



メーガン法を巡る賛否両論(1)~性犯罪者の情報開示は妥当か
メーガン法を巡る賛否両論(2)~「再犯率」のトリック
メーガン法を巡る賛否両論(3)~法律は子供を守れるか 性犯罪の抑止と矯正

朝日新聞 特集:【奈良・小1殺害】
Parents for Megan's Law(全米の性犯罪前歴者リストを網羅)


警察庁、6月から出所後の情報把握を開始


奈良市・女児誘拐殺害事件の小林薫容疑者逮捕を機に、性犯罪の再犯を防止するべく、性犯罪前歴者の情報把握・公開が論議されてきた。刑務所所轄官庁である法務省と警察庁がそれぞれに前歴者の出所後の情報把握に関して検討を進め、異例とも言えるスピード感ある対応が印象的だったが、とうとうこの3月始め、事件から2ヶ月余で関係省庁の「着地点」となる発表がなされた。

【警察庁・法務省 これまでの動き】

2004年末、奈良にパトカーの音が鳴り響いた
《服役後の性犯罪者、住所把握が必要・警察庁長官》2005年1月7日 日本経済新聞
……警察庁の漆間巌長官は6日の定例記者会見で、「再犯防止や検挙のため、性犯罪者が服役後どこに住んでいるかを警察署単位で把握できるシステムが必要」と述べた。……同庁は今後、法務省など関係機関に対し、性犯罪者の出所情報の提供や再犯防止に向けた刑務所での矯正プログラムの実施などについて働きかけていく方針。

《性犯罪者の再犯防止「インフラ整備を」 国家公安委員長 》2005年1月7日 朝日新聞
……村田国家公安委員長は7日の閣議後の会見で、「警察は慎重なところがあるのではないか。犯罪防止の観点から、どのようなインフラ整備が必要か検討してもよい」と述べた。……

《性犯罪前歴者の住所把握、法相は慎重姿勢 》2005年1月7日 朝日新聞
……南野法相は「協議の申し入れがあれば応じるが、本人のプライバシーや人権、円滑な社会復帰に支障がないかなど、難しい問題がある」と述べた。また、米国の「メーガン法」のように性犯罪者の住所や犯罪歴を当局が住民に公開する制度については「格別の慎重さが要求される」と語った。……

《性犯罪者の保護観察強化へ 再犯防止策で法務省》2005年1月18日 共同通信
奈良市の女児誘拐殺人事件で性犯罪者の再犯防止に世論の関心が高まっていることを受け、法務省は17日までに、性犯罪で服役し刑期満了前に出所した仮出所者の保護観察を強化する方針を決めた。……

《居住地把握 児童性犯罪者に限定 警察庁検討「再犯性高い」》2005年2月10日 産経新聞
警察庁は九日、性犯罪者全体を対象とすると相当数に上ることから、特に再犯性の高い十三歳未満の児童を対象とした性犯罪者に絞り込んで検討を進める方針を固めた。ただ、法務省側が保有する居住地情報は受刑者が出所時に自己申告したもので、事実とは異なるケースもある。いかに正確な居住地情報を継続的に把握していくかなど課題は多い。

《前歴者情報、性犯罪以外も提供 関係省庁方針固める》2005年2月16日 朝日新聞
……相次ぐ凶悪事件の再犯防止対策を協議する第1回の関係省庁会合が16日開かれた。性犯罪の前歴者の出所情報は法務省が警察庁に提供することが決まっているが、ほかの罪種でも再犯する可能性のある前歴者は情報提供するなど、省庁間の連携をさらに強化する方針を決めた。……

《性犯罪、4人に1人前歴 警察庁が昨年分466人調査》2005年3月4日 朝日新聞
……法務省によると、情報提供する出所者は年間百数十人。警察庁は過去の出所者までさかのぼって情報を求める予定はないとしている。警察庁はプライバシーに配慮した情報の取り扱いなど具体的な運用方法の検討作業を進めている。

《13歳未満狙った性犯罪 出所後動向、6月から把握》2005年03月04日 産経新聞
……これまでの統計方法では、婦女暴行や強制わいせつといった性犯罪は、同一罪種でのみ再犯率を集計。強制わいせつの前歴を持つ容疑者が婦女暴行で逮捕された場合は再犯率に反映されなかったため、警察庁では関連犯罪も含めて幅広く再犯状況を調べていた。(中略)

児童対象の性犯罪の再犯率(15・9%)は、傷害=20・4%▽恐喝=20・0%▽詐欺=17・9%▽窃盗=19・0%-と比べると決して高い数値ではなかった。

しかし、警察庁は児童を対象とした性犯罪について、(1)犯罪の回避能力が低い(2)心身に受けるダメージが大きい(3)保護者など地域社会に与える不安が大きい-といった理由から、前歴者による再犯防止対策に取り組む必要があるとしている。



警察庁と法務省のアプローチの違い


今回の警察庁発表では、13歳未満対象の犯罪者を抽出した点に、それまでの議論からの大きな進歩がある。児童対象の性犯罪には、一般から見て非常な特殊性が感じられることが多い。被害者が弱者であること、また、保護者や地域、社会一般の不安や怒りがより大きいことなども鑑みて、児童対象の性犯罪に絞ったのは、早急かつ効果的なシステム構築のためにも賢明であると言える。

興味深いのは、警察庁が再犯の恐れのある性犯罪者の情報を早急に把握する方針を打ちだす一方で、「性犯罪前歴のある出所者情報を遡って把握する必要はない」と、譲歩のようにも受け取れる一面を見せている点である。

再犯防止に効果的な情報システムを早急に構築するために、まずは現時点からの情報を把握していくという考えでもあるのだろうが、仮に今後児童対象の性犯罪が発生したとして、それが出所してから年数が経過して把握対象から外れていた「過去の出所者」によるものである危険性は少ないと判断されるのだろうか。そのあたりの判断の根拠が欲しい。

監視するのみでは、出所後の再犯防止にはならない
また、法務省は刑務所を管轄する省庁として、出所者の情報を提供する一方で、あくまでも出所者(前歴者)の更正を図るべく、保護観察を強化するという方針を打ち出している。確かに犯罪者が刑期を終えたのを境に「世に放ち」、あとは情報として監視するのみでは、再犯防止は根本的に実現され得ない。だが、性犯罪前歴者ではなかったにせよ、出所してから数日の男が無差別に幼児を殺害したという事件(愛知・イトーヨーカドー安城店 幼児殺傷事件 2005年2月4日)が現実に起こったいま、出所者の「足跡を見失う」ことへの不安は増大するばかりである。

再犯防止に関しては、警察庁とのアプローチに大きな違いがあり、これは性犯罪前歴者の情報把握が論議され始めた時点からの双方の姿勢に見られた違いでもある。

犯罪防止の観点から、出所情報システムの構築を積極的に唱え続けた警察庁と、加害者の人権への配慮などから、性犯罪者の情報把握にまず消極性を見せた法務省との、お互いの歩み寄りの妥当な結果が、この着地点となったと言えるだろう。

次ページ:性犯罪の「再犯者率」初調査/メーガン法賛成に94%