奈良市・女児誘拐殺害事件の容疑者逮捕を機に広く知られることと
なった、米国のメーガン法。これを手本に、日本でも性犯罪前歴者の
情報把握・公開が論議され始めている。賛成・反対共に噴出しているが、
そもそも性犯罪の効果的な抑止と矯正は、可能なのだろうか?



メーガン法を巡る賛否両論(1)~性犯罪者の情報開示は妥当か
メーガン法を巡る賛否両論(2)~「再犯率」のトリック
朝日新聞 特集:【奈良・小1殺害】

メーガン法は性犯罪の抑止力となったか


過去に複数の性犯罪歴があった男に強姦、殺害された7歳女児の名にちなんだ、米国のメーガン法。凶悪な性犯罪前歴者が転居した先の住民にはその旨が告知されたり、一般住民が性犯罪前歴者の顔写真、氏名、生年月日、住所、犯した犯罪の種類、人種、身長、体重、目や髪の色などの詳細な情報をインターネットで閲覧できるようになっているなど、各州で運用されている。
Parents for Megan's Law(全米の性犯罪前歴者リストを網羅)

だが、メーガン法成立から満8年が経過したものの、その登録者数はうなぎ上りに増加する一方だ。施行時には数万人から始まったものが、現在53万人超と、桁が一つ違っている。メーガン法の目的が、既に前歴のある性犯罪者の社会的監視であるとはいえ、そもそも性犯罪自体が抑止、矯正されているのだろうかという疑問が湧いてくる。


メーガン法成立後の悲劇


メーガン法は、1994年にニュージャージー州で成立し、その後1996年に連邦法となった。しかし、両者の内容には歴然とした違いがあった。

ニュージャージーのメーガン法には、性犯罪前歴者が近隣に越してきた際には、警官が各戸の玄関にやってきてその旨を知らせるという「近隣通告」が義務付けられていたが、連邦法では性犯罪前歴者が刑期を終えたり保護観察となったりした時点で、その情報を「一般がアクセスできるように公開する」という程度の義務付けにとどまっていたのだ。

この「積極的な通告」か「消極的な通告」かの選択は州によって異なり、「消極的な通告」にとどまっていた州では、その後またもや子供をターゲットとした性犯罪前歴者による事件が起こった。

America's Most Wanted
米国の公開捜査番組「FOX アメリカズ・モスト・ウォンテッド」 誘拐される子供たちは後を絶たない
1998年10月、ジェイコブ・ウェタリング君(当時11)は、弟と友人と共に、自転車に乗ってコンビニエンスストアから帰宅途中、マスク姿の男に襲われた。男は3人の少年たちにそれぞれ年齢を聞いた後、弟と友人に森の中へ振り向かずに走れと銃で脅し、ジェイコブ君はその後行方不明となった。犯人は未だ逮捕されず、ジェイコブ君も発見されていないが、その地域には数人の性犯罪前歴者が住んでいたにもかかわらず、近隣の住民は全く知らされていなかったことが後に判明する。

12歳のポーリー・クラースちゃんは、パジャマパーティーのさなかにナイフを持った犯罪前歴者に誘拐、殺害された。19歳のステファニー・シュミットさんも、性犯罪前歴者であった同僚に悪質なレイプを受け、殺された。だが、誰もがその犯罪者たちの前歴を知らなかった。

ジョン・ウォルシュ
自らも愛息を誘拐・殺害されたことで知られる「America's Most Wanted」ホスト、ジョン・ウォルシュ
このようなケースから被害者の家族たちがロビー活動を開始。愛息を誘拐・殺害されたことで知られる米国の犯罪捜査番組のホスト、ジョン・ウォルシュらによる支持キャンペーンも奏功し、性犯罪前歴者、特に児童の性虐待者に対して、より厳格で細かな登録制度を義務付ける立法へとこぎつける。(だが、警官による各戸を訪問しての通告などは、州の判断に任されている。)これにより、全米50州の犯罪前歴者情報の基礎ルールが確立し、この最低条件に満たない州は、法律執行助成金を10%削減されることとなった。


「監視=抑止」にはならない


全米の性犯罪前歴者の登録者数が激増しているのは、こういった背景もあってのことと思われる。だが、オンラインデータベースなどの情報は、既に性犯罪を犯した前歴者の監視には有効ではあっても、今後の性犯罪を抑止することに効果的であるだろうか。

メーガン法成立のきっかけとなったメーガンちゃんの事件では、犯人はメーガンちゃんの向かいの家に、受刑中に知り合った性犯罪前歴者3人で暮らしていた。刑務所を出た前歴者が社会復帰するにあたり、同じような経歴を持つ者が集まるコミュニティーを求めるのは、決して想像に難くない。以前「『魔女狩り』の側面」でも触れたが、社会的監視により住処を追いやられ、追いつめられていった前歴者がこういったコミュニティーに引きこもり、犯罪傾向を強めるのではないかという議論、懸念もある。

次ページ:法務省の再犯防止プログラム/矯正教育の実態/「再犯率高い」説の説得力