奈良市の女児誘拐殺害事件を契機に、性犯罪者の再犯を未然に
防ぐためとして、日本でも性犯罪者の情報公開が論議され
始めている。米国の例として引き合いに出されるメーガン法だが、
これは「社会防衛」か、それとも「魔女狩り」か。
年末の逮捕劇
2004年11月、奈良市で起きた小1女児誘拐殺害事件は、事件発生から40日余を経た12月30日に容疑者逮捕という展開を迎えた(朝日新聞記事2004年12月30日)。幼い女児のわいせつ目的の誘拐・殺害というだけでなく、女児の携帯電話を利用して母親に女児の写真や、再犯を示唆するメッセージを送りつけるなどの異常性が、繰り返し報道されていた。全国の学校や地域で、子供たちを守るべく恐々とした日々が送られていた中での、劇的な逮捕だった。
⇒朝日新聞 特集:【奈良・小1殺害】
しかし、逮捕報道の傍ら、容疑者に過去2度の幼女相手の性犯罪歴があったことも報じられ、次第にこのことが重要性を帯びてくることとなる。
性犯罪者の再犯
年明けの1月6日、警察庁は性犯罪の前歴者の所在を把握するシステムを構築すると発表した(産経新聞記事2005年1月7日)。刑務所を管轄する法務省などと情報提供について協議し、警察活動に活用していくほか、地域住民への情報開示も検討するとの方針だ。これを受けて翌7日、国家公安委員長もまた、性犯罪者の再犯を防止する方策の導入に前向きな姿勢を示した(朝日新聞記事2005年1月7日)。
この根拠となるのは、米国や韓国で既に実行されている、性犯罪前歴者の個人情報の開示である。性犯罪者の再犯による悲劇を繰り返さないための対策として、運用されている。
性犯罪者の再犯率(同じ罪状によるもの)は、その罪状如何にもよるが、およそ10%程度とされている。しかし、わいせつ、強姦、窃盗など性犯罪のカテゴリ内で複数の犯罪を繰り返す率で考えると、その数倍にも上ると伝えられている。一度刑罰を受けたはずの者がまた犯罪に及ぶという意味で、この異様に高い再犯率は、諸々の犯罪の中でも特徴的であると捉えられている。(注:一方で、この「性犯罪者の高い再犯率」という論調に対しては、極めて懐疑的な姿勢がとられている。現在、住民への性犯罪前歴者の情報公開が必要と唱える論調の根拠は、多くはこの平成15年度の警察庁発表から算出されたと伝えられる「性犯罪者の再犯率41%」というセンセーショナルな数値によっている。しかし、この数値の算出の経緯が、諸所の犯罪の中でも性犯罪前歴者の再犯率を恣意的に高めて伝えようとするものであり、信頼性には著しく欠けるとして、強い批判を浴びていることも付記しておく。)
今回の奈良市における小1女児誘拐殺害事件を契機に、この性犯罪者の「再犯率の高さ」が注目され、性犯罪者を特に監視する必要があるとの気運が出てきている。
米国・メーガン法成立の経緯
性犯罪者を監視する方法として引き合いに出されるのは、米国の性犯罪前歴者のデータベースである。1996年にメーガン法と呼ばれる法律が制定され、州によってはインターネット上で市民が登録された性犯罪前歴者の検索をできるようになっている。
このメーガン法は、1994年7月29日にアメリカ、ニュージャージー州で強姦・殺害された女児の名に由来している。当時7歳だったメーガン・カンカちゃんは、向かいの家に住む男に強姦され、殺害された。だが、その犯人に前科2犯の幼児虐待歴があったことを、カンカ一家は知らなかった。
「その事実を知っていれば、事件を未然に防ぐことができた」として、母親は運動を開始、1996年にまずワシントン州でメーガン法が成立、その後連邦法となり、現在は凶悪な性犯罪前歴者が引っ越してきた場合、州政府は近隣の住民にその旨を警告するよう、メーガン法で義務付けられている。また、32州と数十の地方自治体が性犯罪前歴者たちの個人情報を公開しており、地域によって運用の方法は違うものの、法で定められた前歴者のデータベースがインターネット上で公開され、市民がコミュニティーの中にいる性犯罪前歴者について検索できるようになっている。
⇒Parents for Megan's Law(全米の性犯罪前歴者リストを網羅)
性犯罪前歴者たちの個人情報
性犯罪前歴者たちの個人情報とはどういったものなのか。州の保安官事務所などのデータベースにアクセスすると、地域別にリストアップされた性犯罪者たちが続々と画面に現れ、その数の多さに愕然(がくぜん)とさせられる。全米で登録されている性犯罪前歴者の数は、53万3,000人以上に上るという。
地域によって情報の内容に多少の違いはあるが、顔写真、氏名、生年月日、住所、犯した犯罪の種類、人種、身長、体重、目の色、髪の色、そして再犯の可能性を高中低の3段階に分けたものなどが公開されている。
人種も年齢も多様で、中には女性もいる。だが、圧倒的多数が白人男性である。子供を対象とした犯罪者であることも大きく書かれており、現住所も州によって番地の下2ケタを伏せたものもあるが、多くは明確に記載されている。
GPSで位置把握
さらに20州では、仮釈放中の性犯罪者の足首にGPS(全地球測位システム)を付け、常に所在地を確認できるシステムも導入している。このGPSは単に居場所を確認するのみならず、例えば小中学校など受刑者が近づくことを禁止されている特定の地域に入ると、受刑者は警告を受けるようになっている。
また、英国では政府が去年末から性犯罪者の行動追跡に最新技術を使う検討を始めた。GPS機能をつけた、米粒ぐらいの大きさのチップを性犯罪者の皮膚の下深くに埋め込み、居場所を確認しようという計画である。プライバシー保護の観点から慎重論も強いため、実際の導入にはまだ時間がかかるというものの、このような方策までもが討議されるという点で、釈放後の性犯罪前歴者の足取りを把握していない日本の現状とは、格段の違いを感じさせられる。
⇒性犯罪から子供を守る、米での取り組み(TBS News-i 2005年1月5日)
(この項続く)次回:⇒「メーガン法を巡る賛否両論(2)」~魔女狩りか、社会防衛か~
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被害者の人権と加害者の人権。よく語られるこの問題ですが、皆さんはどうお考えでしょうか。今回取り上げるのは、奈良小1誘拐・殺害事件を契機に話題となっている、「性犯罪前歴者の、住民への情報公開」です。
ただ、これは小泉首相も支持し、先日警視庁・法務省発表のあった「性犯罪前歴者の現住所把握」とは別もの。個人データを、関係官庁までに留めるか、それとも一般住民にインフォームするかの、大きな違いがあります。
「性犯罪前歴者の、住民への情報公開」について、
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