困難を極めた製作過程
ボディのほとんどが有田焼で作られており、その他要所要所に金属パーツが使われている。今回の製造過程の中で最も難しかったのは、磁器と金属部分との組み合わせだったという。そもそも焼き物である磁器は焼成による収縮性があるため、金属など他のものとの接合が難しいとされてきた。今回の万年筆ではこの部分がクリアしないことには実現できない。そこで焼き物職人の匠の技である研磨などによってその難関を克服したのだ。焼く前と焼いた後では大きさが違う | 今回一番苦労したという金属と陶磁接合部 |
有田焼万年筆ということで、個人的にとても気になったのは、その強度。同じ焼き物でも、強度という点では陶器よりも磁器である有田焼の方が丈夫なのだそうだ。丈夫とは言っても、器の場合と変わりなく、落としてしまえば割れてしまう可能性はある。しかしながら、そもそも樹脂製の万年筆でもそのリスクはあるので、実用上はそれほど気にすることもなさそうだ。
伝統の絵柄が堪能できる
今回の万年筆には、400年もの永きにわたって受け継がれている有田焼を代表する絵柄が描かれている。香蘭社 染山水 157,500円
香蘭社 古伊万里蘭菊 157,500円
香蘭社 青華春蘭 157,500円
香蘭社では、白を基調にした絵柄が、もう一方の源右衛門窯ではボディいっぱいに柄が埋め尽くされている。源右衛門窯の方はひとつひとつの絵柄がやや凹凸感があり、握ってみるとその感触が指先から感じ取ることができる。
源右衛門窯 黄緑彩兜唐草 262,500円
源右衛門窯 染付章魚唐草濃 262,500円
源右衛門窯 古伊万里風楼閣桜図 262,500円
鑑賞用だけでなく、実用的にも使える
これらの美しい絵柄をたっぷりと堪能できるよう、万年筆にはクリップは付けられていない。絵柄をじっくりと眺められるという点では確かにクリップはない方がいいのだが、クリップにはそもそも実用的な役割がある。この点については、実に粋な解決策がとられている。まず、クリップによるペンの携帯性について。今回の有田焼万年筆では、クリップがない代わりに「筆包み」が付属されている。これはいわゆるペンケースみたいなものだ。ただ、普通のペンケースと違うのはその素材、有田焼を包むのに相応しい本場加賀白山紬の生地で作られている。この筆包みから有田焼万年筆を取り出す所作も含めて愉しんでみたい。
有田焼万年筆を包んでおく「筆包み」
また、クリップははさみ込むだけでなく、ペンの転がり防止という役割も担っている。これについては、「筆休め」というもので、見事に解決している。使わない時の万年筆をこの筆休めにのせておくというものだ。ちょうど箸をのせておく箸置きに近い。この筆休めも、もちろん有田焼で作られている。
有田焼で作られた「筆休め」 | 筆記時にキャップだけをおいておくのにも役立つ |
磁器ということで、重いという印象があったが、実際に手にしてみると、それほどでもなかった。重量は35g。セーラー万年筆の樹脂製のプロフィットシリーズが大体21gなので、それよりは重いが、スターリングシルバータイプが45gなので、決して万年筆として重すぎるといことはない。特にこの有田焼万年筆では、キャップが尻軸にセット出来ないようになっているので、実際に筆記する際はさらに軽くなるので、実用的には全く問題ないだろう。
軽すぎず、かといって重すぎないほどよい重量感
有田焼の美しさを引き立てる21金ペン先ペン先には、セーラー万年筆の十八番である21金になっている。ペンのサイズはプロフィット21シリーズと同じものが使われているそうだ。プロフィット21は私自身も所有しており、その柔らかな書き味は十分承知しているつもりだ。しかし、有田焼との組み合わせによりどんな味が生み出されるのかとても気になる。残念ながら、今回の発表会では試し書きは出来なかった。
有田焼ということで、私は当初観賞用万年筆と勝手に思いこんでいた。確かに美しい有田焼を目で楽しむということもあるが、作り手の方々のお話をお聞きすればするほどに、実用的な万年筆であるということがよくわかった。
有田焼ということで、私は当初観賞用万年筆と勝手に思いこんでいた。確かに美しい有田焼を目で楽しむということもあるが、作り手の方々のお話をお聞きすればするほどに、実用的な万年筆であるということがよくわかった。
職人が1本1本絵付けを行い丹念に仕上げられている。
机の上に飾って愉しむというよりも、文字を書きながら同時に有田焼の美しい絵柄も鑑賞するというのが、この万年筆ならではの愉しみ方ではないかと思う。
<関連リンク>
香蘭社オフィシャルサイト
源右衛門窯オフィシャルサイト
セーラー万年筆オフィシャルサイト
佐賀ダンボール商会オフィシャルサイト
丸善オフィシャルサイト