ビスポークカッター 有田一成さんのこと
ビスポークカッター 有田一成さんです。腰に巻いているのは手作りのエプロン。作業をしていると、スーツがテーブルの端で擦れてしまうため、その予防だそうです。それにしても綺麗なラインのスーツだと思いません? |
ただその前に、テーラーとカッターの違いについて話しておこう。英国では採寸、型紙、裁断、仮縫いまではカッター(裁断師)の仕事。
縫製がテーラーの仕事といった具合に色分けされているのだ。
有田さんはフルオーダー(ビスポーク)に関してはすべての工程(採寸、型紙、裁断、仮縫い、縫製)をたった一人でこなしている。
ボクが過去に取材した日本のテーラーのなかでも、そんな人は少ない。それだけ稀有な人物といえるだろう。
彼は文化服装学院メンズ科卒業後、1991年頃に渡英し、サヴィル・ロウの老舗ギーブス&ホークス(以下G&H)で修行している。
しかもロイヤルカッター(英国王室御用達のカッター)のもとで型紙やお客さんとの会話のキャッチボールなどを中心に学んでいる。
帰国後は、銀座の壱番館洋服店で縫製技術を徹底して習得。
ギーブス&ホークスで修行したことを示す証明書。1994年8月と日付されている。 |
その後、G&H新宿店、ア・ワークルームを経て独立したというわけである。
まさに輝かしい経歴である。しかし、それ以上に彼が素晴らしいのは、美しいシルエットのスーツを求め続けているということだ。
その厳しい姿勢はずっと変わっていない。
1980年代のテレビコマーシャルで、「美しさにおいて妥協はしない」と言ったブライアン・フェリーを思い出してしまった。
さらに古いが、資生堂の海外イメージのクリエーターであるセルジュ・ルタンスと有田氏がだぶることもある(笑)。
職種も時代も違うが、高い美意識の持ち主ということは共通している。
重量感のある作業台。植物のように弧を描いた照明がカッコいい! 壁に掛けられた製作途中のスーツも雰囲気です。 |
もともと手先が非常に器用ということもあるが、長年にわたってスーツ作りに熱中するなかで、さらに技術に磨きがかけられていったのだ。
彼が他と決定的に違うのは勘が鋭いということ。美しいシルエットを追求していくうえで必要な勘が鋭いのである。センスといってもいいかもしれない。
テーラーやカッターという才能に加えて、デザイナーとしての資質に恵まれているのだ。
有田さんはスーツがよく似合う
作業台の正面に取り付けられたハリソンズ・オブ・エジンバラのプレート。じつはこの作業台、有田さんが塗装していい感じに仕上げているのだ。ほんと、手先の器用な人です。 |
肩先を盛り上げたロープド・ショルダーや、フレアーな袖口、ロールの返りは素人のボクが見ても美しいと思ってしまう。
既製スーツのナチュラル・ショルダーが大好きな(というかそれしか着たことがない)ボクが思うくらいだから、目の肥えた常連客からしてみれば、スーツを着た有田さんは、いいスーツサンプルなのかもしれない。