キュービックのシャシーは原則的にはキューブと共通である。ただし、サードシートの設置や積載荷物量の増大による後輪荷重の増加、リヤサスのセッティングの変更に合わせて、フロントサスのスタビライザーの強化などが施されている。
試乗した印象でも、キューブよりちょっと硬くなった程度にしか感じられない。1、2名乗車での印象なので、実際に多人数で乗ったり、沢山の荷物を積めば、その差はさらに少なくなるだろう。定員乗車や満載状態での負荷に合わせればもっと硬めでもいいくらいだが、ダウンユースや少人数乗車での乗り心地を考えるなら適切な妥協点だ。
ホイールベースを伸ばしている分、心なしかヒョコヒョコした揺れが穏やかになったようにも感じられたが、高い重心を硬めのサスチューンで抑え込んでいる感は拭えない。補修跡が多い一般路を走っていると、車軸周りがバタつくような振動があり、やはりヒョコヒョコしている。高速安定はスモールクラスでは高水準にあり、横風を受けながらの100km/h巡航でも不安感はない。日常の乗り心地と高速安定を秤にかけて、高速安定を選んだセッティングともいえる。いくら日常走行の乗り心地が良くても初期のマーチのような操安では長距離を走る気にはならない。
また、高速安定はモビリオに対しても長所。モビリオの頭が重そうな挙動に比べて、動きにメリハリがあって収まりもいい。その分、ボディの揺れに落ち着きがないとも言えるのだが、ステア操作や加減速にあまり気を使わなくても運転できるので、やはり楽に走れるのだ。
キュービックの搭載エンジンはキューブ同様に1.4LのCR14DEのみ。やはり電子制御4速ATとエクストロニックCVT-M6が用意されている。今のところ4WDの設定はない。
高回転域のエンジンフィールがやや荒っぽいのが難点だが、小排気量エンジンながら低回転域から滑らかな加速性能を発揮。100km/hプラスくらいまでならば、余裕を持って流れに付いていける。ただ、平坦路の2名乗車までのテストで、程良く使える動力性能では、乗車人数が多い時の登坂はけっこう厳しそうだ。このクラスにそこまで求めるのは酷かもしれないが、多人数乗車で長距離を走る機会が多いならばCVT車を選んだほうが無難である。
4速ATでも余力感や使い勝手は大して変わらない。変速のメリハリがある分、リズミカルな運転ができるので、こちらを好むドライバーも多いだろう。しかし、パワーの柔軟性ではCVT車が一枚上手。4速ATは速度や負荷によって変動が大きい。つまり、2速加速ではすぐに速度が上がって3速にアップシフト、3速では速度が維持できないのでアクセルを深く踏み込む、そうするとまた2速にダウンシフト、という状況も珍しくない。変速が煩わしければ、マニュアルセレクトで2速で固定すればいいのだが、今度はエンジンの回転が高くなって煩わしい。2.5速とか中途域のギア比が欲しくなるわけだ。
その中途域の変速比を自動的に選ぶのがCVT。4速ATの総変速比は1速11.467/2速6.360/3速4.072/4速2.838だが、CVTは14.016~2.337の間ならば自在のギア比を選択できるのだ。しかも、変速比幅も広いから、どの状況でもエンジン性能を十分に活かしたパワーが得られる。登坂や多人数乗車、加減速幅が広い走り方など、パワーに厳しい状況ほど4速ATに差を付ける。もちろん、速さだけでなく運転が楽になるという意味においてもである。
内装の質感や乗り心地などの多少の難点もあるものの、キュービックが柔軟な多用途性を持ったクルマなのは間違いない。ミニマムファミリーカーとして選んでもいいし、タウン&レジャーカーとして選んでもいい。
多人数乗車狙いではモビリオに及ばないにしても、サードシートを常用しない人ならばキュービックくらいのバランスがちょうどいい。
悩み所はキューブとの価格差である。キュービックはちょうど15万円高。車両価格の一割近い。ちなみにSXとEXの価格差は19.4万円。タウン&レジャーユースならばキューブで事足りるので、15万円は割高である。キュービックのSXの予算でキューブならばEXが狙える。しかし、4名乗車の機会が増えれば、キュービックの多用途性が極めて魅力的。15万円を投資しても、その後の使いでで十分に回収できる。「大は小を兼ねる」的論理はあまり好きではないが、もともと余裕のないスモール&コンパクトならば、少しでも実用面のゆとりは欲しい。購入後に使い勝手で後悔しないための、保険的な意味合いも含めてキュービックを勧めたい。
(「しっかり走りのキュービック」に続く)