赤ちゃんが「うつぶせ寝」になるカンガルーケアは要注意
「問題のひとつは姿勢かもしれない」と渡部医師は言います。カンガルーケアは本来お母さんが上半身を起こしておこなうもので、NICUではお母さんはリクライニングチェアを使っています。ところが、日本の分娩室でおこなわれているカンガルーケアは、お母さんが分娩台上で水平に(真っ平らに)寝ていることが多いのです。お母さんが水平に寝てカンガルーケアをすると、赤ちゃんが「うつぶせ寝」になってしまいます。うつ伏せ寝は、赤ちゃんが理由もわからず突然に亡くなる「SIDS: sudden infant death syndrome (乳幼児突然死症候群)」を起こしやすいことがわかっています。
少し起きあがった姿勢で抱くようにする
実際に新生児医療連絡会のアンケートで報告された重症例は、ほとんどが水平でした。もしもそれが原因ならば、分娩台の背を少し起こしたりクッションを使ったりして、お母さんの上半身に少し角度をつけなければなりません。大規模な調査がスタート
しかし、赤ちゃんに急変が起きる本当の理由を見極めるにはさらに調査を重ねていく必要があります。それも、基本的に発生率が非常に低いので、国中の赤ちゃんを調べるような大規模調査でなければなりません。最近フランスでは、62,968人の新生児を対象に生後2時間以内のALTE(赤ちゃんが、亡くなりはしないものの急に蘇生を必要とする状態になること)とSIDSの発生を調べました。これによると、SIDSを起こした赤ちゃんは0名でALTEを起こした赤ちゃんは2名。その2人が共にカンガルーケアの最中に急変し、初産婦さんで、分娩室に母子だけでおかれていたのでこれらが危険因子でないかと考える人もいます。
しかし、小さく生まれた赤ちゃんへのカンガルーケアでは、呼吸はむしろ安定する傾向があることが以前から知られています。またSIDSの発生率は、カンガルーケアが助けになるという母乳育児により減少します。
新生児室でも、急変は起きているかもしれない
いずれにせよ、「元気に生まれた赤ちゃんでも急変があり得る」という認識をみんなが持つということが安全への土台となるでしょう。渡部医師はたまたまカンガルーケアの最中に急変した重症の赤ちゃんを立て続けに受けることになりましたが、元気な赤ちゃんの急変はカンガルーケアで始まったことではありません。
渡部医師は、搬送されてきた赤ちゃんたちは、カンガルーケアをしなくても同様なことが起きた可能性があると言います。「赤ちゃんをお母さんから離して新生児室に連れて行くという従来のやり方でも、新生児室に誰も人がいない時間帯ができることがあります。これはまだ推測に過ぎませんが、新生児室でも同じ問題が全国的に起きている可能性は否定できません。」
最新の蘇生法をマスターした人が、すべてのお産に必要
分娩室には、異変を発見できる人がいつもいてくれる必要がありますし、いざという時は急変に対して的確に対応してくれなければなりません。海外に目を向けると、国際蘇生委員会という組織があって定期的に心肺蘇生法の国際的スタンダードを作成しています。その新生児版が、「新生児蘇生法ガイドライン(NCPR))。日本でも、日本周産期・新生児学会がNCPRの講習会を開始し、赤ちゃんがどこで生まれてもこの方法を実施できる人がいる状態を目指しています。
NCPRの基本的な技術を学べば、医師でなく助産師さんや看護師さんであっても、高価な機械などなくても、ほとんどの赤ちゃんの呼吸を回復させることができます。これが早く全国に浸透することが望まれます。