危ないお産だった赤ちゃんもカンガルーケアをしていた
渡部医師が勤務する倉敷中央病院のNICU(新生児集中治療室)では、カンガルーケアの最中に急変した赤ちゃんの緊急搬送を今までに3回経験したといいます。1回目は2005年のことでした。 この時、渡部医師は、早くも疑問を感じました。その赤ちゃんは、生まれた時は元気でしたが、分娩は胎児心音が下がって胎児仮死と呼ばれる状態となり、羊水も胎便で濁っていました。渡部医師は言います。「当時、私たちの病院もすでに分娩室でのカンガルーケアを実施していました。でも、分娩中に異常が起きた赤ちゃんは医療処置を優先し、カンガルーケアをおこなうことはありませんでした。」
分娩室にはお母さんと赤ちゃんしかいなかった
倉敷中央病院では、カンガルーケアを導入するときに勉強会を重ね、危険防止についての申し合わせをしました。その際、カンガルーケアの最中にはお母さんと赤ちゃんから目を離さないようにしなければ、とみんなで話したそうです。しかし、最初に搬送されてきた赤ちゃんの場合、異変に最初に気づいたのはお母さんでした。その時、助産師さんは赤ちゃんのそばを離れていたそうです。この赤ちゃんは、命は助かりました。しかし、呼びかけても反応がない状態が続いているといいます。
このままでは、カンガルーケアが否定されていく
「急変の原因がカンガルーケアかどうか、それはわかりません。」と渡部医師は言います。「でも、カンガルーケアの時期が不安定な時期に重なる以上、どんなことに注意しておこなうべきかは改めて検討する必要がある、と感じました。カンガルーケアが良いことだからと言って疑問点に目をつむっていたら、いつかカンガルーケア自体が危険視され、否定されるかもしれない、という気持ちもあったそうです。「カンガルーケアを大事に思うからこそ、問題提起の必要があると思ったのです。」
「元気に生まれた」という安心が油断の元に?
渡部医師は、県内の関係者を対象にしたセミナーなどで「カンガルーケアの最中には目を離さないように」等と話すようになりました。「元気な生まれた赤ちゃんでもその後のことはわからない」と強調したのです。しかし日本の出産施設では、分娩室のマンパワーが足りていません。小さく生まれた赤ちゃんへのカンガルーケアはNICU(新生児集中治療室)の中でをおこなわれています。もともとリスクが高い赤ちゃんですからスタッフの厳重な管理の下におこなわれており、母子だけがその部屋にいるという状況にはなりません。しかし元気な赤ちゃんが安産のお母さんに抱かれているのであれば、それはさほど警戒されないものです。だからお産が重なったりして忙しければ、分娩室に誰もいなくなってしまうことがあります。