海外には「1度に2個の受精卵を戻しても多胎妊娠が増えるだけ」という研究が多数あります
日本産科婦人科医学会が「原則1個」という新しいルールを決めるのに先だち、日本生殖医学会は、2007年に「多胎妊娠防止のための移植胚数ガイドライン(移植胚=戻す受精卵のこと)」を出しました。条件の良い場合(35歳未満で凍結卵ではない場合、良好な胚盤胞(後述)の場合)は1個としました。3個でもよい場合は40代で良好な胚盤胞ではない場合に限定しています。理由は、200年代前半から、海外に「複数の受精卵を子宮に戻すというやり方は多胎妊娠は確実に増えるが、赤ちゃんを抱ける率が上がるとは限らない」という結論の研究が次々に現れたからです。その背景には、「胚盤胞」という、今までより成長した段階まで体外で受精卵を育てる技術が発達し、受精卵が妊娠しやすくなったということもありました。
双子、三つ子の赤ちゃんは流産しやすく、最終的な結果はほとんど変わりません
体外受精で複数の受精卵を戻すと2~3割は多胎(多くは双子ですが)妊娠になります。オーストラリアの研究をご紹介します。2003年に胚盤胞を使った体外受精382件を調べたところ(妊娠率が目立って低下する38歳以上の人は除いています)、一回の体外受精で赤ちゃんを無事抱けた率(生産率)は2つ戻した人の方が上回りました。しかし、ひとつの受精卵を戻した人で最初は妊娠しなかった人が、前回に余った受精卵を凍結したものを使ってもう一回試みると、累積生産率に個数による違いは出ませんでした。2回の体外受精は大変、と思われるかもしれませんが採卵は1回です。「1度に2個戻すより、1個ずつ2回戻しましょう。結果は同じで、かつ多胎妊娠を防げる」ということだと思います。
信頼性の高い研究を国際的に複数検討して報告しているコクランレビューというプロジェクトでも「ひとつだけ戻す方法は凍結卵でない場合は少し生産率が下がるが、ひとつずつ2回にわたって移植した場合は遜色がなくなり多胎妊娠も防げる」と上の結論と同様のことを報告しています。
戻した受精卵の数で結果が変わらないのは、双子以上の妊娠では流産率が高いということもあります。