実家にも夫にも頼れず、自分の収入もほとんどなかった
Aさんは、結婚していない自分が妊婦として産婦人科に行くことにも抵抗がありました。
でも、一族の中で結婚話は進みませんでした。Aさんたちの実家は、何と両方とも両親の結婚が危機に陥っていて、若い世代の結婚を考えるような空気はなかったのです。
自分の自由になるお金が少しあれば、Aさんは健診に行ったかもしれないと言います。でも、Aさんの収入はアルバイトを短時間したくらい。そのお金もすぐ消えてしまったし、まだ婚姻関係にない夫に大きなお金を出してもらうのは悪いと思いました。
突然の激しい腹痛、そして手術
それでも、いよいよ産婦人科に行くことになったのは、妊娠7ヶ月のときでした。強い腹痛と吐き気に見舞われたのです。急遽、ともかく婚姻届を役場に出すことにし、保険の手続きをして、その日のうちに大きな病院の産婦人科に行ったのが初診となりました。
医師は「普通はこんな時期に来ても受けてくれるところはない」と言いながらも、診てくれたそうです。Aさんは腹膜炎を起こしていて、そのために早産しかかっていました。そのまま入院手続きがとられ、手術となり、以降、臨月に入るまで2ヶ月のあいだ入院生活を送ることになりました。
「赤ちゃんにはかわいそうなことをした」
Aさんは、今、退院したばかり。今日、初めて普通の妊婦健診を外来で受けてきた、と話してくれました。結婚したので母子手帳も取りに行けたし(実際には、母子手帳は婚姻に関係なくもらえます)、そのときに入っていた無料の受診券がこれから使えます。でも、もう臨月なので余ってしまうかもしれません。
健診を受けなかったことについて、行けなかったのだから仕方がなかった、と今も思っているAさんです。
「健診を受けていれば腹膜炎を起こさなかったかといえば、そんなことはないと思うんです。健診にかからなくても、特に困ることはありませんでした」
ただ、そのあとに、ぽつんとこんな言葉がありました。
「でも、赤ちゃんには、かわいそうなことをした」