搬送を受け入れる医師の気持ち
医師が救急ケースを受けとめるためには、いま何が必要? |
神奈川県・湘南鎌倉総合病院は鎌倉市で唯一の出産施設。そこに勤務する井上裕美医師は、病院が搬送の受け入れに力を入れていることもあり、搬送をよく受け入れています。しかし、病院にはNICU(新生児集中治療室)がありませんし、医師も常に多人数いるわけではありません。設備と人が不十分なために、受け入れたいけれど断ることがあると言います。
また結果がよくなければ、責任を問われることもあり得ます。そうした不安があっても井上医師は、自宅で寝ている医師やスタッフを呼び出して夜中の緊急手術をおこなったりしています。それを喜んでくれる人は多く、そんな時は疲れがふっ飛ぶそうです。しかし、感謝どころか「不手際だった」と叱責して帰る人もいます。
頑張る医師ほど傷つく仕組み?
また、他のある医師は、未受診の人を受けてお産を終えた時、こう言っていました。「僕が受けなかったら、あの人を受けるようなところはこのあたりにないんだよ」
そうやって頑張ってくれる医師が損をするような形では、頑張ってくれる医師が、ひとり、またひとり、といなくなってしまいます。
医師数が多く、NICU(新生児集中治療室)のある施設なら、受け入れはもう少し安心です。しかし最近はハイリスク出産が増えてNICUもパンク状態。また、周囲の産科がなくなったために正常出産の人がたくさん来るようになり、大混雑となっています。
本当はすべての人を受け入れてほしい
知的障害のある方は妊娠がわからないこともあると聞きますし、この格差社会の中、経済的事情のある人も未受診の人には多いようです。近くに産院がない人も増えています。
119番通報をすれば誰の家にもわけへだてなく消防車が来てくれるように、本当は、医療はすべての人を受け入れるのが本来の姿だと思います。しかし、いろいろな理由で、それを目指せない産科医療になってきています。地域に一箇所でいいから、それができる病院が欲しいと考えます。