イラスト・平井さくら |
正常な受精卵だけを子宮に戻す「着床前診断」
「着床前診断」とは「体外受精をして(不妊治療と同じ方法)、遺伝子診断で正常とわかった受精卵をお腹に戻す」方法で、出産前に赤ちゃんの遺伝子異常や染色体異常を知る「出生前診断」のひとつです。
日本産婦人科学会は、この検査をする時は申請して許可を得るように会員へ義務づけていますが、習慣流産を対象としたケースはまだ認められていません。
ところがこの5月、神戸の大谷産婦人科で習慣流産の予防を目的にこの検査が使われ、11人が出産予定と新聞などで報じられました。大谷産婦人科では、学会がこの技術を認めないのは、女性の権利への侵害だと主張しています。そして、習慣流産で悩んできた女性たちが検査容認を求める声も報道されました。
自然に妊娠できる人が体外受精をするリスクは?
この新しい出生前診断は、認められ、普及すべきでしょうか?
All About「出産医療・産院選び」で流産について詳しく教えてくださり、病院では「習慣流産外来」の担当医でもある藤井知行先生に、この技術についてうかがってみました。
専門医に聞く!「流産」でおなじみの藤井先生です。 |
東大の「習慣流産外来」にも、7回も8回も流産をしたという方が多数来ています。ですから、この人たちが悲しい体験を繰り返さないですむ方法があればよいと思いますが、この検査がそれに当たるかどうかは、まだわかりません。
習慣流産にこの検査をおこなうことについて、倫理問題は筋ジストロフィーなどと違い、比較的起こりにくいと思います。というのは、習慣流産の原因になる染色体異常を持つ受精卵は、お腹に戻してあげても生きていかれません。ですから、障害を持った方たちの持つ生存する権利を脅かす心配は少ないといえます。
ただ、着床前診断は体外受精をしなければならない点が問題です。体外受精は生児獲得率が必ずしも高くないのです。東大病院では、2002年のデータですが、210個の採卵に対し出産にこぎ着けた赤ちゃんは33人でした。習慣流産の人が流産の原因になる染色体異常のない受精卵を選んで子宮に戻してもらっても、そのあと、これだけの厳しい自然淘汰があるのです。
また、検査の際に受精卵から割球をとる操作をするので、何もされなかった受精卵より流産率が高くなる可能性もあります。こうしたことを考えながら、「体外受精+着床前診断」という組み合わせと「自然妊娠+流産の染色体異常がない受精卵で妊娠するのを待つ」という形を比較したとき、果たしてどちらが早く妊娠できるかはわかりません。今後はまず、その比較研究の結果を待つべきでしょう。
また、着床前診断が自然妊娠と同程度かほんの少し成績がよかったとして、妊娠の機能には何の問題もなく普通に自然妊娠できる習慣流産の人たちが、体外受精の負担(排卵誘発剤や卵巣の穿針、1回数十万円もかかる費用など)を背負うのは妥当なことか、疑問だと思います。(談)
男女産み分けに使われたことも
新しい医療技術が開発され、悩んでいる人が救われるのは嬉しいことです。しかし、本当の姿を見極めるには時間も、議論も必要なようです。
そして、医学な面よりさらに議論が難航しそうなのが、倫理面のことです。この検査は、流産を予防するだけではなく、さまざまな目的で使われる可能性があります。
かつては、男女産み分けのためにおこなわれたこともありました。
(2) 出生前診断と男女産み分け
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新しい出正前診断「着床前診断」
(1) 着床前診断は流産を救う?
(2) 出生前診断と男女産み分け