人間の身体は、よくできている
私が骨盤の中にハンモックのイメージを持つようになったのは、産婦人科医のペトロス博士(オーストラリア)、ウルムステン博士(スウェーデン)が1980年代から提唱している新しい手術の理論を知ったためです。
子宮脱は、若い人、軽症の人はあまり手術しませんけれど、ひどくなってくると手術しか解決法がありません。それで従来は、子宮に吊ったり、膜を縫い縮めたりしてピンと張る手術をしてきました。
しかし、ペトロス博士たちが開発した手術は、小さな穴からポリプロピレンのメッシュを差し込み、力が弱くなった靱帯の上に置くだけなのです。このメッシュは、時間が経過すると自然に体にくっついて、その部分を強くします。
子宮や膀胱を支える組織は、ただ支えるだけではなく、弾まなければなりません。なぜならそこは、排泄を止めるときに必要な反射が起きる場所で、反射を起こすためには弾力が必要なのです。そして、メッシュで補強をしてあげると、それだけで、反射が回復してきます。
ひとの身体はよくできている、と思います。最小限の手術で、その人が本来の力を取り戻すのを見るのはうれしいですね。
かつて、分娩台の出産をやめて自然出産を導入した井上先生は、手術でも、できるだけ身体本来の力を生かす方法を探り当てていた。そして、ハンモックのイメージは楽しく、話しにくいこの悩みに親しみを感じさせてくれた。
※ハンモックの絵は、『尿失禁と性器脱の治療』(メジカルビュー社・刊)に収録された井上先生の担当章「?.性器脱の手術」の図版を参考に描き起こしたものです。 イラスト・平井さくら
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