えっ、確定申告しなくてもいいの? いつも税金戻ってきてたんだけど、どうなるのかな……公的年金等の受取額400万円以下の確定申告不要の損得を検証!
年金額400万円以下は、もともと確定申告が不要
近年は、確定申告会場で高齢者の姿が少なくなっているような気がします。インターネットで申告する人は少ないと思われる層ですので、「公的年金等(※)の収入金額が400万円以下で、かつ公的年金等以外の所得金額が20万円以下の人は、確定申告をする必要がない」制度を利用する人が増えているということなのでしょうか。(※)公的年金等とは、国民年金や旧共済年金、厚生年金、企業から給付される企業年金などを指します。
厚生労働省年金局「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢厚生年金(老齢基礎年金を含む)の平均受給月額は約15万2000円です。これに企業年金を加えた公的年金等の平均的な受給総額は250万~300万円程度と考えられますので、年金受給者の多くは確定申告をする必要がない、ということになります。
確定申告をすると年金生活者も還付金がもらえる?
公的年金は、年間支給額が65歳未満は108万円以上、65歳以上は158万円(老齢基礎年金を受けているときは80万円)以上の場合、所得税が源泉徴収されて支給されます。そして、その所得税の過不足は確定申告によって精算します。確定申告が必要ない年金受給者にとって、この精算を行わないということが本当に「得」に繋がるのか、少し不安を感じます。
公的年金から源泉徴収される税額の計算式
公的年金等の源泉徴収税額は、次の計算式で算出されます。■扶養親族等の申告書を提出している場合
源泉徴収税額=(公的年金等の支給額-社会保険料-控除額(*1))×(所得税5%+復興特別所得税0.105%)
※65歳以上の退職共済年金の受給権者は、「(退職共済年金支給額-社会保険料-控除額(*1)-政令で定める一定額)×5.105%」になる。政令で定める一定の額とは、4万7500円にその年金支給額の計算の基礎となった月数を乗じて計算した額
(*1)控除額=(基礎的控除額+人的控除額)×支給月数
- 基礎的控除額
1カ月分の公的年金等の支給額×25%+6万5000円(65歳未満の最低控除額は9万円、65歳以上の最低控除額は13万5000円) - 人的控除額
- 一般の控除対象配偶者3万2500円(年間39万円)、老人控除対象配偶者4万円(年間48万円)
- 一般の控除対象扶養親族1人につき3万2500円(年間39万円)、老人扶養親族1人につき4万円(年間48万円)、特定扶養親族1人につき5万2500円(年間63万円)など
源泉徴収税額=(公的年金等の支給金額-社会保険料-基礎的控除額(*2))×(所得税5%+復興特別所得税0.105%)
(*2)基礎的控除額=1カ月分の公的年金等の支給額×25%+6万5000円(65歳未満の最低控除額は9万円、65歳以上の最低控除額は13万5000円)
年金額240万円、扶養配偶者ありのケースで試算
源泉徴収税額は、「扶養親族等申告書」を提出しているかどうかで大きく変わります。240万円の公的年金を受給していて、扶養配偶者がいる人で比較してみましょう。社会保険料は、65歳未満は20万円、65歳以上は16万円とします。■扶養親族等申告書を提出している人(65歳未満)
- 基礎的控除額:
1カ月分の公的年金等の支給額×25%+6万5000円(65歳未満の最低控除額は9万円)
=240万円÷12カ月×25%+6万5000円
=11万5000円(>9万円) - 控除額:
(基礎的控除額+人的控除額)×月数
=(11万5000円+3万2500円)×12カ月
=177万円 - 源泉徴収税額:
(公的年金等の支給額-社会保険料-控除額)×5.105%
=(240万円-20万円-177万円)×5.105%
=2万2000円
- 基礎的控除額:
1カ月分の公的年金等の支給額×25%+6万5000円(65歳以上の最低控除額は13万5000円)
=240万円÷12カ月×25%+6万5000円
=11万5000円(<13万5000円)⇒ 基礎的控除額は13万5000円 - 控除額:
(基礎的控除額+人的控除額)×月数
=(13万5000円+3万2500円)×12カ月
=201万円 - 源泉徴収税額:
(公的年金等の支給額-社会保険料-控除額)×5.105%
=(240万円-16万円-201万円)×5.105%
=1万1800円
・基礎的控除額:
1カ月分の公的年金等の支給額×25%+6万5000円(65歳未満の最低控除額は9万円)
=240万円÷12カ月×25%+6万5000円
=11万5000円(>9万円)
・源泉徴収税額:
(公的年金等の支給額-社会保険料-基礎的控除額)×5.105%
=(240万円-20万円-11.5万円)×5.105%
=10万6400円
■扶養親族等申告書を提出していない人(65歳以上)
・基礎的控除額:
1カ月分の公的年金等の支給額×25%+6万5000円(65歳以上の最低控除額は13万5000円)
=240万円÷12カ月×25%+6万5000円
=11万5000円(<13万5000円)⇒ 基礎的控除額は13万5000円
・源泉徴収税額:
(公的年金等の支給額-社会保険料-基礎的控除額)×5.105%
=(240万円-16万円-13万5000円)×5.105%
=10万7500円
上記の計算から、「扶養親族等申告書」を提出していない65歳未満の人は、10万6400円と、提出した人が払う2万2000円より実に約8万4000円(65歳以上では約9.5万円)も多く源泉徴収されることがわかります。
本来、納めるべき所得税額と比べてみよう
前出の「年金額240万円、扶養配偶者あり」の年金受給者が、本来納めるべき所得税はいくらなのでしょう。扶養控除以外に、社会保険料控除20万円(65歳以上は16万円)と生命・地震保険料控除7万円を受ける場合で計算してみましょう。
●65歳未満
240万円
公的年金等の雑所得の所得:
240万円×0.75-27万5000円
=152万5000円(*3)
(*3)公的年金等の雑所得合計額が130万~409万9999円までは「公的年金等の雑所得合計額×0.75-27万5000円」で算出する
所得控除:
基礎控除48万円、配偶者控除38万円、社会保険料控除20万円、生命・地震保険料控除7万円
=計113万円
課税所得:
152万5000円-所得控除113万円
=39万5000円
所得税額+復興特別所得税額:
39万5000円×5.105%
=2万200円(所得税率は5%)<年金支給時の源泉徴収税額は約2万2000円
●65歳以上
公的年金等の雑所得の収入:240万円
公的年金等の雑所得の所得:
240万円-110万円(*4)
=130万円
(*4)公的年金等の雑所得合計額が329万9999円までは「公的年金等の雑所得合計額-110万円」で算出する
所得控除:
基礎控除48万円、配偶者控除38万円、社会保険料控除16万円、生命・地震保険料控除7万円
=計109万円
課税所得:
130万円-所得控除109万円
=21万円
所得税額:
21万円×5.105%
=1万700円(所得税率は5%)<年金支給時の源泉徴収税は約1万2000円
公的年金等の雑所得の所得を算出する計算式は、65歳未満と65歳以上では異なりますので、注意が必要です。
同じ要領で、65歳以上で公的年金等の受給総額が300万円、「扶養親族等申告書」を提出した人(扶養配偶者あり、国民健康保険税18万円、生命・地震保険料控除7万円)のケースでも計算してみました。すると、「源泉徴収税額約4.1万円、本来納めるべき所得税額は約3.9万円」になりました。
どうやら、社会保険料控除や生命保険料控除・地震保険料控除などを受ける場合は、年金額によりますが確定申告をするほうが「お得」になる人が多いようです。
年金400万円以下でも確定申告をしたほうがいい年金生活者はこんな人
年金400万円以下でも確定申告をしたほうがいい年金生活者はこんな人!
確定申告が必要ない年金受給者で、それでも確定申告したほうがいいのはどういう人でしょうか。目安は以下のとおりです。
生命保険料控除や地震保険料控除を受ける
「扶養親族等申告書」を提出していない
「扶養親族等申告書」を提出した後に扶養親族等が増加した
なお、一般的に確定申告したほうがいい人については「今さら聞けない確定申告って何?」で解説しています。
前出の試算でお分かりのように、確定申告が必要ない年金受給者であっても、確定申告をするほうが「お得」なケースが多くありそうです。確定申告の手順で納めるべき所得税額を算出して、年金支給元が発行する「公的年金等の源泉徴収票」に記載されている源泉徴収税額と比較しましょう。ちょっとの手間で、外食1回分くらいの税金還付を受けることができるかもしれませんよ。
最後に、この2点は注意しておいてください。
65歳以上の人は、公的年金等から所得税、介護保険料、個人住民税、国民健康保険税、が天引きされます。
※記事内の税額計算はあくまで概算です。
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