マーケティング/マーケティング事例

「なだ万」身売りの衝撃!老舗が大手に買われる理由(2ページ目)

高級料亭「なだ万」がアサヒビールに買収された。「なだ万」といえば200年近い歴史を持つ、料亭の代名詞的存在だった。そんな歴史の中で育まれてきた強固なイメージは諸刃の剣。一つ戦略を誤ったことで客足が途切れはじめた。買収劇とともに老舗ブランドの今後について、マーケティング視点で解説します。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

買収するアサヒビールにメリットはあるのか?

今回の買収だが、ガイドの見解では「なだ万」にはメリットはないと考える。あるとすれば、経営が立ち行かなくなり資金繰りに困ったところを、資金的に助けてもらったということだろう。では、買収したアサヒビールにメリットはあるのだろうか。その答えも限りなくノーに近い。

アサヒビールは買収理由について「老舗料亭の経営ノウハウを取得することで、外食企業に対する営業提案力の強化につなげる」としている。しかし、それは不思議な理由だ。なぜなら、アサヒビールのメイン領域はあくまで飲料である。確かに最近ではプレミアムビールに力を入れ、おそらく今後もこのセグメントは伸びるだろうが、老舗料亭の経営ノウハウを学んだところで大した上積みは期待できない。ちなみに、「なだ万」におけるアサヒビールのシェアはすでに約9割にもなる。「なだ万」そのものに上積みは期待できない。

売上高に対するインパクトもほとんどない。売上高が1兆7000億円以上のアサヒビールに対して、なだ万は売上高150億円とアサヒビールの1%にも満たない。なだ万のブランドイメージを利用して、プレミアムビールのプロモーションに利用したり、「日本の和食に合うビール」という名目で売り出す可能性もある。しかし、それがどこまで実効果を発揮するか疑問だ。先に述べたように、なだ万ブランドは年々衰えている。アサヒビールが買収したことでブランドイメージも変わり、衰えは加速するはずだ。

「なだ万」は180年の歴史を誇るが、ブランドイメージとしての賞味期限はそれほど長く残されていない。アサヒビールのなだ万買収報道があっても、株式市場は反応しなかったのも納得である。双方のメリットが見えてこないのだ。


老舗が抱える悩み

今回の買収は、老舗が抱える悩みを露呈した象徴的な事例だ。「なだ万」だけでなく、多くの老舗が苦しい状況にあることは想像に難くない。理由は最初に述べたように老舗を取り巻く状況の大きな変化だ。長年続いたのれんを守るため、藁にもすがる気持ちで、仕方なく大手企業の傘下に入る老舗はこれからも増えるのではないだろうか。

ただ注意したいのは、一人のお客に合わせて質を追求する老舗と全国各地で事業を展開する大手企業では、経営においても、マーケティングにおいても根本から考え方が異なるということだ。老舗においてはスケールは小さくても、質を高く、顧客満足度を最大限に高くということが目指される。一方、大企業の方は、スケールを最大化するために、あらゆる要素を調整する。このように、老舗と大企業は相反する存在なのだ。


食文化を守るために

ガイドの願いはたった一つ。大手企業には、日本の文化を守るという目的を第一義に考え、老舗を助けるというスタンスを取って欲しい。老舗を利用して、既存事業の売上高を上げるのではなく、日本を代表する大手企業として、日本の食文化を守るという視点を持って欲しいのだ。大きいものが小さいものを飲み込むのではなく、小さいものを尊重するという企業姿勢は、多くの消費者から賞賛されるはずだ。そこに買収企業側のメリットも少なからずあるはずなのだ。
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