■代行返上のおかげで自分の会社の株価も下がる?
代行返上の基本的なしくみについては「社員編」でチェックしてきました。また、多くの場合、代行返上とセットで企業年金のカットが行われる可能性が高い、ということも見てきました。
ところで、企業はどうして代行返上をしなくてはいけないのでしょう。代行返上をすると株価が下がるとニュースではずいぶん言われています。代行返上を決定している企業には大手メーカーを中心に上場企業もたくさんあります。もしそうなら、自分たちの会社の株価を下げる取り組みを自分たちで行っているようなものです。
そんなことをしたら、株主から怒られそうなものですが、株主は代行返上について怒る気配はないようです。むしろ、怒りの矛先は役所に向けられています。どういう理屈になっているのでしょう?
代行返上を行う会社の都合が分かると、代行返上の真相がだんだん見えてきます。まずは、代行返上で株価が下がる理由を見てみましょう。
■代行返上で株価が下がる理由
「社員編」で説明したとおり、代行返上自体は、会社が実施していた厚生年金基金で積み立てていた国の厚生年金の一部を、国に返却する一連の作業のことです。これ自体は株価に影響する話ではありません。また、そこで社員の企業年金がカットされることになっても、実は株価にマイナスの影響を与えるわけではないのです(むしろ株主から見ればプラスかもしれません)。
問題は国に返却するときです。社員が過去数十年勤めていた期間のお金を企業年金側で積み立てて運用していたわけですが、これを全社員分、精算して金額をはじきだし、国に返金しなくてはいけません。実は、大企業などではこの金額の合計が数千億円にもなるのです! 中堅企業などでも数十~数百億円はくだらないでしょう。500もの基金がこれを一斉に行うと考えるとものすごい金額です。
このお金、現金で返却するのが原則です。しかし、企業年金のほうでは数千億円の現金はなく、ほとんどは債券や株式という形で資産化しています。これを全国の代行返上企業が一気に売り払ってしまうと、買う人より売る人が大量発生することになり、株価は大暴落しかねません(それこそ数千円下がるくらい!)。そこで、国は一部分については債券や株式をそのまま返却してもよいことにしました(これを現物での返上ともいいます)。これで株価も下がらないので安心というわけです。