男性シングル編:「年金負け組」のストーリー
俺の名前は高野昭典(仮名)、独身だ。自分で言うのもなんだが仕事もできるほうで、年収も大学の同級生と比べれば数割以上高いんじゃないかな。おかげで、お金に苦労したことはほとんどない。服はすべて伊勢丹メンズ館でこだわって揃えているし、食事も雑誌に載るようなお店はほとんど試している。住んでいる部屋もシオサイトにある120平米の高層マンションの高級賃貸。もちろん北欧家具などでインテリアもバッチリだ。俺は結婚をしなかったので、自分の稼ぎを自分の生活の満足のために目一杯つぎ込んできた、というわけだ。もちろん、結婚を考えた女性がいなかったわけじゃない。でも、誰かを扶養することの面倒さや子育てに2000万円近くかかるとも言われる負担が嫌で、ひとりでここまできてしまった。まあ、結婚した同級生の愚痴を聞けば、結婚なんてしなくてよかったと思う。
生涯賃貸派でここまで来た。35年も住宅ローンに縛られて人生を制限されるより、そのとき住みたい場所を次々選んでいくほうがいい。新しい部屋や流行りの地域をいろいろ試せるし。こんな風に自由に暮らせるのも結婚して子どもを作らなかったおかげだ。
ところが、定年退職して年金生活に入った途端、俺の優雅な生活は暗転した。あれだけ高い厚生年金保険料を払い続けていたというのに、俺の年金はなんと月額25万円しかないというのだ(2004年水準)。これでも他のヤツより高いと言われたのだが、今まで毎月60万円以上かけて暮らしていた俺に足りるはずもない。60歳時点の貯金はほぼゼロ、もらった退職金3000万円も、70歳になるころにはあっという間に底をついてしまった。
国の年金額には家賃代は含まれていないというのは知らなかった。これもどんどん財産がなくなった理由のひとつだ。おまけに年金生活に入ってからは不動産の更新にも苦労する。仕方ないので、70歳になったとき、築30年のボロアパートに引っ越すことになった。
現役時代にコツコツ買い揃えたイームズやコルビジュの高級家具が並ぶ安アパートの部屋で閉店間際に半額になったお総菜を食べる毎日。お金が足りなくなったときは、家具をひとつずつ手放して、昔楽しんだリッチな食事を年に1回だけひとり味わう。こんなはずじゃなかったのに……。
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