申請主義の見直しより、PR体制と情報提供体制の充実を!
申請主義はおかしくないと言いましたが、だからといって今の国の年金のあり方を認めたわけではありません(この点、誤解のなきように!)。やはり、申請主義以外のところで「あぐらをかいていた」部分はあったと思うのです。第一に、国の年金についていえば、データの管理や統合の体制についてずさんな部分がありながら、それを正しいデータに訂正し続ける努力や、本人からの申し出に謙虚に対応して修正する姿勢は社会保険庁に欠けていたようです。これは大きな問題でした(ただし申請主義とはまた別の問題です)。
システムというのは巨大になればなるほど完全性を維持するのは困難になります。特に年金のデータは超長期に及ぶためどうしてもミスがでやすくなります。何せ40年前は全国の社会保険事務所で紙の帳票管理だったのですから、不完全な状況があり得ることは当たり前で、それを素直に認める体制が欲しかったところです。
不完全なデータについて、本人の「申請」に応じてそれを正しいものにしていくつもりがあったのだとすれば、申し出を最大限配慮するべきでした。しかし実態は「お役所仕事」というべき横柄なものであったようです。これは最も大きな組織的誤りであったといえます。
第二に見直すべきは、PR体制が不足していたということです。国民にとって老後を支える重要な制度であるはずの公的年金制度が、どれだけ国民の理解を得ていたかは疑問です。受給開始年齢に到達した人たちへ請求を促すような情報提供はもちろん、現役世代の多くの国民に対しても現在加入している年金制度はどのようなもので将来どのような年金が受けられるかといった情報発信は欠かせません。
しかし、国の年金広報といえば未納対策に終始しており、あるいは改正された内容(多くは給付の減額)の情報提供に追われて制度そのもののPRがなおざりになっている傾向がありました。こうした積み重ねが今回のトラブルやぬぐい去れない年金不信の大きな原因の一つになっていることは間違いありません。
第三に、情報提供や情報開示の体制作りに努力が足りませんでした。今回の「失われた年金」問題のもっとも大きな問題は「自分が今どのような加入履歴になっているか確認できない」「自分がどれくらいの年金額が見込めるのか確認できない」ことにあったからです。実は2006年3月からインターネット経由でパスワードを申し込むと加入履歴がチェックできるサービスがスタートしていますが、手軽に利用できるにはまだ不十分です(このサービス自体PRが不足しています)。将来的には「ねんきん定期便」という文書を全国民に定期的に送信するなどして情報開示を行っていく予定ですが、せめてこの取り組みが数年早く実行されていればよかったのに、と思います。
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