しかし、ここで「申請主義はおかしい」という人の理屈はときどき論理が飛躍することが気になります。たとえば極端な人は「国民は仕組みを分からないのだから、申請しなくても給付がスタートできるようにするべきだ」というような論調になります。しかし、これは国民を「権利の上にあぐらをかく者」に権利を与えてしまうような危険な考え方です(権利は自ら行使することによって守られるのであり、行使しようとしない者にまで当然に与えられるものではない)。
あるいは強制的に給付がされると「給付をもらわない自由」を奪うことになります(まあ、そういう人はほとんどいないとしても)。ついでにいえば、そもそも「振込口座」が分からないのに勝手に国が年金を振り込むことはできません。勝手に国が口座に振り込んでくるというのはちょっと怖くありませんか?
それに国が勝手に年金額を決めて振り込んでくるのでは、「その年金額は誤りでは?」という申し立てすらできないおそれがあります。年金の加入履歴をお互いに確認をしたうえで、支給額が確定されるべきです。むしろそうしたチェック機能が失われることのほうが問題ではないでしょうか?
やはり、本人が内容を確認した上で、自らの意志で申請した書類を尊重して手続きを行う「申請主義」で進めていくのが現実的だと思います。
とはいえ、私も国のやり方をすべて是認するほどお人好しではありません。国に求められているのは、「申請主義の前段階」の取り組みをきちんと行うことだったと思います。それはつまり、本人が手続きをするために必要な情報提供を行うことです。
ほとんどの方は触れないようですが、実は国は60歳になる前段階で何度かの情報提供を行っています。まず、58歳に到達した全国民には過去の年金加入履歴をまとめた書類「年金加入記録のお知らせ」が届きます。この段階で誤りがある場合は修正の手続きを行うことができますし、届いていない場合はその旨を申し立てることで書類が正しい住所に届きます。またこのときハガキで希望すれば「年金見込額のお知らせ」をもらうこともできます。
また、実際に60歳到達3カ月前(厚生年金加入者の場合)には年金を受け取るための書類一式が送られてきます。書類を社会保険事務所まで自分で取りに来い、とは国も言っているわけでなく、書類や手続きの案内は送ってきてくれているわけです。
問題はこれにきちんと対応できるような情報が不足していること、住所地の情報管理が不完全であることなど「申請主義の前段階」で不備があったというわけです。むしろメディアが問題にするべきはこちらであったのではないかと思います。
そこで、「申請主義の前段階」で見直すべきポイントについて次のページでは考えてみたいと思います。