<藤田> 嗅覚、視覚、味覚と語り合って来ましたが、次は触覚です。嗅覚、視覚、味覚は食事とも共通する感覚ですので、温泉を食事に例えて説明されることも多いのですが、触覚こそは入浴である温泉独特の感触になろうかと思います。触覚に関する楽しみや、思い入れなどを、ご紹介いただけますでしょうか?
<郡司> 温泉に入浴するとつるつる、ヌルヌルしていつまでも石鹸が落ちないような体験があると思いますが、それは温泉の特徴の一つです。これらのつるつるした感触の湯はその湯自体がトロミを持っています。こんな温泉はたいへん入浴感が良く、気持ちよいので大好きな泉質です。
また逆に、つるつるせずにキシキシと湯に張り付くような感触の温泉もあります。つるつるの湯は成分中の炭酸イオン(CO3-)の量で決まると思っています。ほとんどがアルカリ性です。単純温泉で、つるつるする湯の場合CO3の量を見てください。30mg以上入っていることが多いです。またこの炭酸イオンが100mgを超える量になってくると猛烈につるつるします。
また純重曹泉もつるつるの湯が多いです。重曹の濃度が濃いとつるつるしますが、カルシウム、マグネシウム、鉄などの金属分が入っているとつるつるしなくなります。重曹分の比率が高いものほどつるつる度が強くなります。
次に、酸性泉は初めて入浴したときにはつるつるしますが、これは肌の角質が取り去られているためです。何度か入ると逆に張り付くような感触になりつるつるはしなくなります。
また、新鮮な湯や炭酸泉では身体に気泡が付くことがあり、温泉の大きな感触の一つです。多いものでは身体が気泡で真っ白になり炭酸飲料のコップのような状態になります。非常に楽しく、また新鮮さを感じて嬉しくなります。湯の中に炭酸分が多量に溶け込み、飲んでも炭酸味がわかるほどの炭酸泉である場合は、体感でも清涼感があります。
鉄分を含む赤い湯はキシキシとします。つるつるとは逆の感触です。粉っぽい感触ともいえます。
<藤田> 触覚も実は非常に幅広い分野だと思います。私の場合、まずは温度が大切だと思います。折角の良い温泉でも、温度調節が中途半端だと勿体無いと思ってしまいます。
もちろん、単に自分の好みの温度か否かということではなく、元の源泉温度を生かした温度調節が望ましいと思います。熱い源泉なら熱めの調節。温い源泉なら温めの調節が望ましいと思います。もちろん、湯船が複数あって温度が選べたら、それはそれで望ましいですが、私なら源泉温度に近い方の湯船の入浴時間を長く取ると思います。
触覚、つまりお湯の感触で代表的なのは、すべすべ感だと思います。その魅力は、つるつるした湯がお好きな郡司さんに詳しく解説頂けると予想していましたが、予想通りでしたね。(笑)
すべすべした湯に関して、念の為申し上げたいのは、お湯自体がすべすべしているのではなく、泡が体に付いてすべすべに感じることもあるということです。泡を拭き払った状態でもすべすべするのか、注意深く確認する必要があると思っています。お湯の本来の個性を知ることと同時に、誤解せずに正しく理解することも大切だと思いますので。
温泉に浸かった時に、お湯から独特の浸かり応えを感じると、私は嬉しくなります。浸かった時の感触なので、私はこれを「浴感」と呼ぶのですが、一般的な言葉でいえば、やはりお湯の浸かり応えとか、濃度感という感じかなと思います。
同様に感じて嬉しいのが、体が温泉の成分によって余計に温まったと感じる時です。特に硫酸塩泉は血行促進効果があると言われますが、中でも石膏泉で顕著に感じることが多いです。
そうしたことを感じる為にも大切なのが、外気浴だと思います。温泉は湯船から出たり入ったりして楽しむ物だと思っていますが、お湯から出ている時にも、温泉成分を感じ取れるということです。いや、むしろお湯から出ているからこそ、感じ取れることもあるのです。たとえば、温い湯に短時間浸かっただけで、予想以上に体が温まって、お湯から出ても寒くないと感じれば、石膏泉の血行促進を実感していることになります。さらに、ずっとお湯から出ていても寒くなければ、食塩泉の保温効果を実感していることにもなると思います。