この日、台湾先住民である排湾(パイワン)族の刺繍が施されたベスト、貝殻やビーズが付いているキッチュな帽子を身につけて、溝上さんが登場されました。首には陶製トンボ珠のシックなネックレスが。クールにキメテらっしゃる。そして、Tシャツも先住民アーティスト・撒古流(サクリュウ)さん※2のイラスト…。どうしてここまで台湾先住民の手工芸品に魅了されたのでしょう。
溝上さん(以下、Mさん) : 元はといえば、北米のネイティブ・インディアンとしての先住民に興味があって。1993年の国際先住民年に、世界中から様々な先住民を呼んでコンサートを開き、その翌年94年にもコンサートを開いた時、台湾からも泰雅(タイヤル)族が初来日されました。そこで初めて台湾の先住民と出会い、本格的に魅了されていくきっかけとなりました。
ー そのとき、先住民という「人」や音楽だけでなく、工芸品にも出会った、ということ?
Mさん : そうです。先住民の手工芸品は付属品というか。一番魅了されているのは、先住民そのもの、先住民という人間が大好きなんです。彼らをもっと知りたいと思って止みません!同じ思いの妻においては、まずは言葉からと思い立ち、台湾に1年間語学留学してしまいました。
ー ご夫婦そろって、台湾の先住民という「人」にハマったんですね。
Mさん : 先住民と接していくと、その人とのつながりが非常に温かいものに思えて、居心地がよくなってしまったんです。
ー では、先住民と関わっていくことは、一生続きそうですか?
Mさん : はい! ライフワークです!
ー 先住民の人柄を、手工芸品を通して一生にわたって広めたい、ということでしょうか。
Mさん : 先住民の手工芸品の「技術力」と「伝統的な意味合い」、これらをみなさんに楽しんでもらいながら、台湾の先住民を知るきっかけになったり、興味をもって接してくださる機会になれば、と考えています。それに作品自体が非常にキレイですし。
ー 手工芸品ひとつひとつに、先住民の思いが込められている、先住民の歴史でもあるんですね。
Mさん : そうです。先住民各民族の手工芸品、例えば排湾(パイワン)族でいうと「太陽」「壺」「百歩蛇」をモチーフにしてデザインしています。太陽(空)から壺が降ってきてその中から人間が誕生した、という伝説があるからです。百歩蛇は、猛毒を持つ蛇で、噛まれたら百歩も歩かないうちに死んでしまう、といういわれからそんな名前がついています。この蛇も排湾族にとっては欠かせないものなので、刺繍などで使われるデザインです。今日着ているベストのこの刺繍は、排湾族のもので太陽を表す刺繍なんです。(左の画像)
ー 溝上さんが扱っている品々が、各民族の伝説を楽しく伝えてくれるんですね。
Mさん : 民族の伝統や伝説、そこに込められた祈りなどは、口承文化なんです。年輩の人から若者へ伝授されていくなかで、個々がアレンジを加えて形を変えながら残っていくんです。トンボ珠は、台湾の排湾族と魯凱(ルカイ)族が作って(使って)おり、この2民族の伝説や装飾品は似ているんです。トンボ珠も何気ない模様に見えるかもしれませんが、意味があるんですよ。例えば、孔雀の羽をモチーフにした孔雀珠というのは愛情を表し、美しさを呼ぶ、とされています。