ある日は、蘊蓄を語れる宿に泊まる。

六本木ヒルズ
ヒルズ族は東名を西に向かう人が多いようだ。
最近、世間を賑すことの多い、ヒルズ族のトップたち。
超多忙のなか、しっかり「自分の時間を作ることができる」彼らは、オフタイムにどんな宿に出かけているのだろう。
六本木・渋谷界隈に居を構える彼らの話のなかから、割り出してみた。
やはり多そうなのは、箱根・中伊豆周辺。
平日の午後五時。いつものように、食事のアポに出かける時間に、今日の同伴者とともに車のシートに体を埋め、東名につながる首都高3号線に乗る。
ここで、関越や東北道に乗ろうと思うものなら、夕方の渋滞が続く首都高環状線を通らねばならない。それだけで小一時間をロスすることを考えると、軽井沢も那須も頭の中から外れていく。第一、「いきなり渋滞」ではダサい。
夕焼けの富士に向かい東名を走ること一時間もかからないうちに御殿場ICに着く。あるいは、もう15分で沼津IC。まだ、六時。オフィスの社員たちは、仕事のスイッチがもう一度入るころだ。

あさば
シテ方は、池の上を船で能舞台へと渡っていく。
中伊豆で、彼らに支持される宿がある。
修善寺温泉の「あさば」。
浅羽家は能に造詣も深く、年に何回か、能や狂言が能舞台で演じられる。そんな日はもとより、平日も満室の日が続き、一見客には予約が取りにくい一軒である。ホームページも作る必要がない。
この宿には、芸術界や芸能界の逗留者も多い。あとは、医師や弁護士。そして、彼らのような企業経営者たちが主な客層だ。ちなみに、売れる旅館とそうでない旅館の差は「平日も埋めてくれるコアな客層がいるか」どうかという点。その点、「あさば」は磐石である。
300年以上の歴史や宿文化は、庭園の池越しにライトアップされた能舞台を眺めながら、旬や文化の蘊蓄を語りたい彼らにとっては格好の舞台なのだ。
ちなみに、「あさば」での食事は、お部屋出しである。接客係さんが一品ずつ運ぶ、昔ながらのスタイル。ここで、重要なのは、誰が泊まったか決して口外しない守秘義務の履行だ。
なかには「旅館に泊まったことがない」という大物芸能人がいる。その理由は、「以前誰が泊まった」とか話す女将や接客係のことをよく聞かされるので、旅館は信じられない、ということだそうだ。プライバシーの厳秘は、宿泊業としての最低限の約束ごとのはず。有名人のサインが並ぶ旅館には、有名人がプライベートで行くことは決してない。
そして、「あさば」と並んで、ヒルズ族御用達の宿といえば、箱根のあの宿。