東京・銀座、歌舞伎座の裏にある9階建て、淡色のビル。
誰もがいぶかしげに脇目を寄せるが、そこが「日本旅館」だとわかる人はいない。
足元に「吉水」の木の看板が立てかけてあるだけで、文化人のサロンか、新しい呉服問屋か・・・。
和の宿「銀座吉水」がオープンして半年。
この宿には、深みにはまるととことん馴染みになるようなクセがある。
宿泊者には、名だたる文化人や経済人も多い。
隣に座っていたおじさんが、誰もが知っている一流会社の社長だったときは驚いた。
しかし、行ってはいけないケースも多い。例えば、
・喫煙を我慢できない方(この宿はレストランのベランダを除き禁煙)
・温泉旅館のような上げ膳据え膳サービスを求める方
・カロリーたっぷりの豪華な料理を求める方
・食べ物の好き嫌いが多い方
・お部屋にはたくさんのアメニティを求める方
・食後の寛ぎタイムにはテレビがなくてはならない方
・お金の価値は「モノやサービスとの交換」にあると思う方、など。
禅道場のように、ストイックで、こだわりを押しつけているのではない。
吉水は、ただ、昔ながらの自然体のサービスを提供しているだけ。それは、モノに囲まれ、豊かに、贅沢になり過ぎた現代人に対するアンチテーゼかもしれない。
しかし、吉水は、外観は現代風だけど、自分の生活をもう一度、古きよき時代にリセットしたいとき、懐かしい日本文化をもう一度味わいたいとき、その原点を思い出させてくれる“宿屋”なのだ。
・建物は、化学塗料を一切使わない自然素材造り。
・布団は肌にやさしいオーガニックコットン。
・食事は、全国の無農薬素材を集めた美味しい家庭料理。
・最上階の貸切お風呂のお湯は、塩素を入れないやさしい水。
・お部屋には騒音を出すテレビや冷蔵庫は置かない。
・ゴミになるだけのアメニティも置いていない。
・地階にはホールがあり、時々日本文化を発信している。
「コンビニ弁当ばかり食べてる若者に、本当の食べ物の美味しさをわかってもらえれば嬉しい」と、下町で印刷会社を経営していた女将は笑う。
そんな「銀座吉水」に泊まってきた。