Aさんの場合
アメリカンショートヘアー、去勢済み
発病時:3歳6ヶ月
発病時期:秋
●なぜ気がついたのか?
何度もトイレを出たり入ったりするが砂が濡れていない。
陰部を何度も舐める。
●病院での診察・診断は?
膀胱は尿でいっぱいになっていた。
カテーテルで尿道を通し、膀胱を圧迫して尿を出す。
膀胱洗浄して、血液検査と尿検査。
顕微鏡をみせていただくと、角張った柱状のストルバイト結晶がきれいに見えた。
血液検査の結果は、BUN(血液尿素窒素:血液中の尿素に含まれる窒素分。腎臓で濾過され尿中に排出)115.4(正常値:13~30位)、CRE(血清クレアチニン:・蛋白の老廃物。筋肉中で使われた物質が血液中に放出されたもの)10.3(正常値:0.9~2.1)
●原因として考えられることは?
身内に不幸があり、家の中が騒然としてネコの様子を見てあげられなかった。甘えん坊の性格なので、人一倍ストレスを感じていたのではないか?と思う。
●その後の経過
家のことが落ち着くまで入院させて、病院に治療を任せた。
退院後療法食(サイエンスダイエットS/D;結石を溶かす成分が含まれたFLUTD対策用の特別療法食)を1ヶ月間食べさせる。不味いのかかなり抵抗。
以降、発病予防のために維持食(サイエンスダイエットC/D)を食べさせる。
発病前の食餌はドライフードが主体(尿道結石に配慮したプレミアムキャットフード(ドライフード)を選んで与えていた)。ウェットフードを主体にすれば水分の摂取量を増やすことができるだろうが、ウェットフードだと同じ栄養価を満たすのに食べさせる量がかなり多く必要となる。またウェットフードを主体にすると、どうしても下痢気味になったり、吐いたりすることがあったので、ドライフード主体にして、ウェットフードはお楽しみとできるだけ水分を摂ってもらうための手段としてあげることにした。
■水分をたくさん摂らせるために今まで効果があった方法・(ネコは新鮮な水の方を好むので)水飲みの入れ物は床よりも高い所の方が埃が入りにくいのでよい。
・水飲みの場所は食べ物のそばより少し離れた所に、また幾つか複数の場所を用意する。
・水飲みの大きさも大小あった方がよい。
・食事の後、水を飲む可能性が高いので、食事の時にお水も人肌くらいの水に取り替えておく。
・大きめのお盆の上に水飲みを置き、お盆の上に少し水を垂らしておく。
療法食にもいろいろな種類がある。中には塩分を高くして、喉を渇かせて水をよく飲ませるタイプのものがあり、水はよく飲むようになるが、腎臓への影響も心配。ネコが少し高齢の域にある場合は特に成分を見比べて選ぶことが必要と思われる。
Bさんの場合
ノルウェイジャンフォレストキャット、去勢済み
発病時:1歳11ヶ月
発病時期:6月
●なぜ気がついたのか?
頻繁に陰部を舐める。
何度もトイレに入ってオシッコスタイルをする。
一生懸命力んでも出るのは数滴で、血が混じる。
タオルやクッションなど柔らかいものにオシッコをしようとする。
かなりの痛みがあるようで、自分の下半身に向かって威嚇する。
●医者での診察・診断は?
最初 検尿、抗生剤・消炎剤注射、抗生剤処方
2回目 抗生剤・消炎剤注射、カテーテル処置
3回目 3日間入院、抗生剤注射、カテーテル処置、膀胱洗浄、抗生剤処方
4回目 カテーテル処置
5回目 検尿、抗生剤注射、抗生剤処方、療法食を始める、その時ストラバイトを溶かす作用の無い維持食(サイエンスダイエットC/D)を指示される
6回目 抗生剤・消炎剤注射、抗生剤処方、血液検査、全身麻酔カテーテル処置
7回目 検尿、カテーテル処置、療法食の間違いに飼い主が気づき指摘
8回目 会陰部尿道造瘻術、手術から4ヶ月で療法食を止めてよいとの指示
9回目以降は違う病院で漢方薬をいただいたり、療法食を続けるよう指示
●その後の経過
猫の性格も少しおっとりして、機嫌良く過ごしている。
飼い主は季節の変り目には、特に注意している。
半年に一度尿検査、一年に一度血液検査を続けている。
今は尿に沈殿物がないが、食餌は維持食(サイエンスダイエットC/D)。
ただ手術の後遺症で、膀胱に尿が溜まっている時にお腹に力を入れると尿漏れすることがある。
手術では少し括約筋を伸ばしたので、脱糞もしやすい。
●原因として考えられることは?
会陰部尿道造瘻術
Bさんの場合は、手術を行いました。
ただし、この手術、病院側からは「尿管を少し広げます」という説明だけで行われました。しかし、実際は会陰部尿道造瘻術と呼ばれる、ペニスを切除し尿路を広げる手術でした。
ペニスを切除してしまうと尿路が直接外部にさらされるわけで、細菌感染の恐れが高くなりますし、内部での潜血も起こりがちで失禁しやすくなったりします。
Bさんのネコは、その後何度も膀胱炎や潜血や尿詰まりを繰り返し、別の動物病院へ通うことになりました。そこで、きちんとした説明と治療を受け、現在は落ち着いた状態を保っているそうです。
元々結石化しやすい体質のネコ、その結石が短期間で大きくなりやすかったり、結石ができる位置が排除するのに難しい場合には、この手術を選択する必要があるかもしれません。
しかし、中には治療において何度も何度も尿カテーテルを通すことでペニスや尿管に傷が付いたり炎症が起き、最終的にこの手術を選択せさるを得ないケースもあるようです。
もしかしたら、発病時の獣医師の治療如何でその後の経過に影響が出る可能性があります。
Bさんが、伝えてくれたメッセージを今回の特集の最後の言葉にします。
『最初の治療で療法食にしていたら、そして処方された療法食が間違っていなければ、療法食をずっと続けていたら、もしかしたら大事にならなかったのではと考えてしまいます。
その時は飼い主にも心の余裕が無く、ネット検索することさえ思い浮かびませんでした。いざとなったら舞い上がってしまいます。実際に病気になる前に、いろいろ勉強しておきたいと思いました。でも、正しい理解があれば上手く付き合っていける病気だ思います。
ネコ友達も力強い味方です。ネコの病気にもセカンドオピニオンが必要と実感しました。』
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「もしも?!」シリーズVol.1 トイレ以外で粗相をし始めたら…
ネコの健康・ネコの病気-Vol.3 ネコの肥満とダイエット
ネコの繁殖メカニズム
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■-----参考リンク-----■
FLUTD日記
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