奥深く非常に楽しい香りの世界
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| 非常に奥深い香りの世界に引き込まれるのも、温泉の大きな楽しみ。(垂玉温泉 山口旅館 滝の湯)※写真はクリックで拡大。 |
＜郡司＞ 嗅覚の話からということですので、湯の匂い、または香りについて語ります。温泉は泉質によってさまざまな香りを持っており、それが源泉ごとに違うので、湯の香りを確認するということは非常に楽しい世界があります。また、香りは循環すると消滅してしまうことが多いので、掛け流しの温泉のほうが香り高いと言えます。香りはまさに、湯の新鮮さの重要な指標にもなりうるのです。
香りの代表的なものは硫黄臭でしょうが、他にも臭素臭、わら臭、刺激臭、かつおぶし臭、金気臭など表現に困るほどさまざまな香りがあります。温泉地全体に漂って匂っているような多量な香りもありますが、それぞれの浴槽に入っている湯口からの香りが判明すると嬉しいものです。特に新鮮なものは香ばしいので嬉しく思います。
香りは同じ温泉地や泉質でも源泉ごとに違い、数多く観察していると個々の相違が分かり楽しいものです。また分析表との対比をしてみるとFe（鉄分）やBr（臭素）、I（沃素）HS（硫化水素イオン）、H2S（遊離硫化水素）などの含有量と比較してみるのも必要です。匂いは、これらの成分の単独のものや混合しているものまであり、香りの世界は奥深いと思います。
＜藤田＞ 郡司さんに「香りの世界」と表現して頂きましたが、まさにその通りと思いました。温泉の香りを堪能していると、本当に独特の世界とでもいうべき場所に引き込まれて行くように感じます。
私は香りの堪能には言葉は不要だといつも思っています。素晴らしい香りを感知すれば、直ちにそれを理解し、深い満足に包まれ、引き込まれて行きます。その素晴らしい体験の記憶を少しでも多く残す為に、香りから感じた印象を言葉の比喩で残しているに過ぎないと思います。なので、香りの表現はあまり厳密、正確である必要はなく、むしろ本人が直感的に思い出せることを重視した表現であるべきと思っています。
個人的には硫黄臭が特に好きですが、単に濃厚な香りというよりは、複雑に混合されたような香りに惹かれます。また、美しい香りよりは、むしろ個性的な悪臭気味の方が、どうしても癖になる程、惹かれるものを感じてしまいます。そう感じる理由は分からないのですが、そうした直感を信じること、信じて良いということが、趣味の醍醐味であろうと思います。
一方で私の場合、香りの質や強さももちろん重視しますが、改めて冷静に考えてみると、結構場所が重要な気がします。湯口の湯は良い香りなのに、湯船の湯に香りが無いと寂しいですよね。やはり、広い範囲で香っているということにも価値があると思うのです。浴室全体に香りが篭っていたり、脱衣場で既に温泉の香りがすると、只者ではないと思い、嬉しくなります。
これが外、つまりオープンエアの環境で香っていると、本当に驚いてしまいます。露天風呂なのに、まるで内湯のように香りが「篭っている」と表現出来る程強かったことがあったり、外の駐車場に車を停めて、車から降りた瞬間に、露天風呂の湯の香りが漂って来た温泉があり、本当に驚かされました。こうしたことは、忘れがたい記憶となって残ります。さらに大規模な香りの感知としては、草津に行く時に寸前で休憩したのですが、硫黄臭が漂って来て驚きました。流石に草津の湯の香りが、そんな距離まで漂うとは思えませんので、白根火山の火山臭が風向きによって大規模に漂ったのであろうと推測しましたが、温泉地の火山的な資質を示す香りとして、驚きつつも嬉しい経験でした。
