ホテル/ホテル関連情報

ヒルズ、そしてセレスティンホテル。

「ガイドが贈るショートストーリー」コラボ企画。シティホテルからは、男女の微妙な心の揺れの物語をお届けします。

執筆者:渡辺 正晴


クリスマスプレゼント
All About「旅行・レジャー」チャネルのガイドによるクリスマス特別企画。7名のガイドがそれぞれの街を舞台に、クリスマスにまつわるショートストーリー作りにチャレンジしました。物語の最後には、ステキなプレゼントのお知らせも。ガイドが贈るショートストーリー「クリスマスプレゼント」で、小さな旅をお楽しみいただければ幸いです。



アイロンがけと遅刻

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彼女との待ち合わせは、六本木ヒルズで14時。まだしばらく時間がある。穏やかに晴れた冬の昼下がり、自宅のベランダには今朝干したばかりのTシャツやタオルが揺れている。僕は、お気に入りのシャツにアイロンをあてる。ゆっくりとアイロンの底を気持ちよくすべらせながら。彼女を休日に誘い出すのは始めてだ。

余裕をもって準備をしたくせに、なぜか僕が大江戸線の六本木駅に着いた時には、午後2時をまわっていた。ここからヒルズの中までは、まだ5分はかかる。約20分もの遅刻だ。携帯で彼女に連絡をすると、2~3コールの後、「もしもし?」と、いつも通りの問いかけるような口調で彼女が答える。「ごめん。えーっと、まだあと5分ばかりかかります」と伝えると、「ぜんぜん、いーよ。ぶらぶら見てるとこだから、あれ、でもどこに戻ればいいんだろう?」と、のんびりとした彼女の声が聞こえてきた。きっと彼女はヒルズの中を迷っているに違いない。彼女はいつも道や街に迷う。待ち合わせのたびにだ。渋谷でも青山でも。ま、今日は僕が20分も遅れてしまったせいで迷わせてしまっているのだけれど。

メトロハットの脇で・海抜250メートル

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5分後、僕がヒルズの敷地内から電話をすると、彼女は「ぐるっと吹き抜けになっているホールの中階にある」スターバックスにいると言う。きっとメトロハットの中だと思い、行ってみると彼女がいた。「さーて、どこにいこうか?」と彼女に近づきながら、僕は尋ねる。僕と彼女はいつも、あまり行き先を決めることはない。それは、何時まで互いを拘束してもよいのかを、いつも互いに計りかねている、僕と彼女との微妙な距離が関係しているのかもしれない。

彼女が展望台から夜の東京タワーを見てみたいというので、僕たちはすっかりクリスマスに色取られたヒルズを少しだけ歩き、ヒルズとメトロハットの間にある、屋外のスペースにあるベンチに座ることにした。遠くには午後の東京タワーが見える。吐く息がくっきりと白くなるほど寒いはずなのに、僕と彼女はそこに座って話をし続ける、暗くなるまで、ずっと。仕事のこと、毎日のこと、ただし、肝心な部分は微妙に外して。

何時間くらいそうしていたのだろう。不意に、あたりが暗くなったような気がした。そろそろ展望台に上る時間だ。チケットを僕が買い、高速のエレベーターでふたり一気に海抜250mの高さにたどり着いた。眼下に見える六本木の街。遠くには、ついさっきまで紅白の骨組みをくっきりと見せていた東京タワーが、ほんのりオレンジ色にライトアップされている。昼間のうらびれた寂しい感じはすっかり消え、暖かな電球に囲まれた姿は、まるで幸せの象徴のようだ。



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