若き伝承者としてハワイのマスターに学ぶ
ハワイアン・キルトにあふれた部屋でキルトをすれば、癒し効果も |
これだけの伝統ある固有な文化が、途絶えてしまう可能性もある状況を彼女は目の当たりにしてきた藤原さんは、日本人ながら地元のアンティたちにも一目置かれる若き伝承者となっています。
「アンティたちと一緒にキルトをしている中で、普通のレッスンではわからないような習慣も、何気ないおしゃべりを通じて学ぶことができるんです。ハワイアン・キルトでは黒は使わないものだ、とか、玄関マットのように足で踏むものは作らないとか。そういう長年培われたハワイ女性の風習みたいなものを、彼女たちから、生きた言葉として学びましたね。」
ハワイでは、ハワイアン・キルトのバイブルのような、決まった教本もとくになく、人から人へ、このように言葉で伝承されてきた文化なのです。だからこそ、加齢とともに活動の幅を狭くしていかざるを得ない世代に代わって、藤原さんのような新世代が、今後、ますます伝承者として活躍していくことになるのでしょう。
キルトを通じて文化と歴史、ハワイ女性のライフスタイルを継承
ただ作り方を習うというのではなく、藤原さんはアンティたちから文化と歴史、ハワイ女性のライフスタイルも学んだと言います。「ハワイアン・キルトというのは、単なる『手芸』ではないと思っています。ハワイという特別な場所の文化と歴史の証しなんですね。作品の上手な作り方よりも先に、まずそのことを知っていただくことが私のポリシーでもあるのです。」
著書「のんびりチクチク ハワイアンキルト」 |
ハワイの日常生活の中でキルトと触れ合い続けてきた藤原さんの著作には、肩の力を抜いた優しいハワイアン・キルトの魅力が満載されています。
「ハワイアン・キルトを教えるようになり、そして本まで出版させていただくチャンスを得て、私が一番伝えたいと思ったのは、技術より前にスピリットなんですね。ハワイの公園の木陰などでチクチクと一針ずつキルティングをしている時の、穏やかに心が癒される体験。こういう、実際に体験しないと感じられない大切なことを、ひとりでも多くの人と共有したいと思っているんです。」
人々の生活の中で息づいた文化として継承されてきた、身近な伝統技術だけに、書道やそろばんのような習い事にある「○級」とか、「修了証」の発行のような制度はとくにない世界。でも、だからこそ価値があるのだと、藤原さんは強調します。
「よく勘違いされがちなのですが、ハワイアン・キルトには流派や家元のような考え方はまったくないのです。お教室などは、ともすればビジネスの対象にもなりやすいせいか、独自に認定制度のようなものを考案して型にはめようとする動きもあるようです。私はそれはハワイアン・キルトには合わないと思っていますし、成り立ちを考えても、相反するものなのではないか、と思っているんですね。」
ハワイアン・キルトは、生活と密着した、もっと優しく、大らかなもの。それをたくさんの人に理解していただきたい、と願いながら、藤原さんは、次なる展開を計画しています。
次ページは「2005年、日本・ハワイでレッスンを再開」です。