
総務省が9月20日に発表した労働力調査によると、高齢者の就業率は65~69歳が54.5%、70~74歳が36.2%、75歳以上は12.6%でいずれも過去最高だった。
高齢になってもなぜ働き続けるのか。もちろん、一人暮らしで経済的に働かざるを得ない人もいれば、夫婦の年金が少なくて働くしかない人もいる。一方で、「今のところ経済的に差し迫った問題はないが、少しでもお金を貯めておきたい」人もいるし、「生活は年金で、働いた分は自分の趣味などに使う」と余裕を見せる人もいる。
フルタイムに近い働き方をしてもなお……
30代で離婚、女手1つで二人の子を育て上げたミカさん(68歳)。子どもたちは独立したが、彼女は古くから住む集合住宅で一人暮らしをしている。
「子ども2人は結婚していますし、私のことで時間やお金を使わせたくない。生活費、大丈夫なのと聞かれたら大丈夫と答えます。孫を連れて遊びに行くと言われたときは、『ごめんね。その日は友達と遊びに行くの』と断りますけどね。実際には来られても困るんです。なんのもてなしもできませんから」
少し寂しそうな顔になった。今もパートを掛け持ちするミカさんの収入は、家賃と必要経費を払ったら食べるのがやっと。激安美容院で髪を切り、100均で化粧品を買う。図書館で借りる本を読むのが、空いた時間の楽しみだ。
「死ねないから生きている。そう思った時期もあります。でも図書館に通うようになって認識が変わったんですよ。今は、いわゆる日本文学の古典を写しているんです。これがなかなか面白い。もともと大学では平安時代の文学を専攻していたけど、当時はまじめに勉強していませんでしたから。写しとってみると、当時は分からなかったことが見えてくるんです」
自分の生活、自分の人生のために
ノートも百均で調達。基礎はあるので、物語を写すとおのずと意味が分かり、深く読むことができるという。彼女は俳句も独学で勉強している。
「たまたまパート先のショッピングモールで俳句を募集していたので応募してみたら、佳作に選ばれました。しょう油や塩の調味料セットをもらえてラッキーだった」
そんなことでも張りになるとミカさんは言う。その日暮らしで、大きなお金が貯まる予定もないが、こうやって日々過ごしていくのも悪くない。最近はそんなふうに思っているそうだ。
「パート先には友人もいますしね。娘一家と楽しそうに暮らしている人でも、娘の夫と相性がよくないと悩んでいたりもする。一人でも家族と一緒でも、みんな同じようなもの、悩みのない人なんていないでしょう。だったら他人に煩わされないだけマシかもしれないと思っているんです」
自分の生活、自分の人生のために働く。そこに選択肢はない。
選択肢の1つとして働く
ユイさん(69歳)は、1歳年上の夫と結婚して33年。共働きで子ども二人を育ててきた。「共働きなのにワンオペ。それがつらかった」
夫は65歳で仕事を辞めたが、彼女はその後も働き続けている。というのも、93歳になる夫の母親と同居しているからだ。
「もし私が仕事を辞めたら、おそらく介護は全部、私の仕事になってしまう。今までさんざん面倒をみてきました。今度は夫が自分の母親をみてもいいんじゃないでしょうか」
60歳前後で、近所に住むユイさんの両親は介護が必要な状態になった。家の中は歩けても外には出られない時期が続き、在宅でのリハビリなども行っていた。ヘルパーさんを頼みつつ、ユイさんも食事の支度などできる限りのことはしたつもりだ。
「結局、私が63歳のときに父が、その2年後に母が亡くなりました。当時、すでに夫の母を引き取っていたので、それはそれは大変で……。子育てよりずっと重労働でした」
夫に介護の大変さを実感してもらいたい
夫の母は今も元気なのだが、急な体調不良に見舞われることもあるし、日によってはトイレに行く手助けが必要なこともある。その年齢になると、体調は一定しないのだ。
「夫は、『オレが定年になったら母親の面倒はみる』と言っていたんですよ。ところが私の定年が近づくと、『二人なら介護もしやすいよね』と言うようになっていた。義母は徘徊もしないしトイレも基本的には一人で行ける。だからそれほど介護が大変なわけじゃないのに、夫は音を上げているんです」
ユイさんも定年後はゆっくりしたいと思ったが、あえてフルタイムで働き続けることにした。勤務先もそれを望んでいた。
「もうしばらくは辞めるつもりはありません。夫の母には世話になったし、今も関係が悪いわけではないけど、あの大変な子育て時期と私の両親の介護時期。それを一人で乗り切った私からみると、夫には、たった一人の母親の面倒くらい自分でみなさいと言いたいですね」
その後は夫の介護が待っているとしたら、今が一番私の自由な時期かもしれないとユイさんは言った。ずっと誰かの面倒をみている人生だったから、と。嫌だったわけではないが、夫にもその実感をもってほしいのだ。そうでなければ老後を助け合えない気がするからと。「女性の平均寿命まであと18年しかないの」とユイさんは真顔になった。
<参考>
・「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」(総務省統計局)







