
著名人の「脳梗塞」発症のニュースを、しばしば目にします。一方で、健康診断などで「血圧が高い」「コレステロールが高い」と、将来的な脳梗塞のリスクを伝えられても、いまひとつ実感がわかない方もいるかもしれません。
40~50代の人にとっては「脳梗塞は高齢者の病気」という印象が強く、「まだ若いから大丈夫」と考えてしまうのかもしれません。しかし、国内の研究でも、若い世代の脳梗塞が増えている可能性が指摘されています。脳梗塞は年齢にかかわらず、決して他人事ではないのです。
では、若い世代で起こる脳梗塞には、どのような前兆があるのでしょうか。また、脳梗塞を防ぐには、何に気をつければよいのでしょうか。40~50代の人も注意すべき、若年性脳梗塞について解説します。
40~50代でも起こる脳梗塞。50代では「800人に1人」発症の報告も
40代や50代でも、脳梗塞は決して珍しい病気ではありません。
日本人1万4797人を長期間追跡したJPHC研究では、脳梗塞の発症率は、40代後半で年間10万人当たり54.8人、50代では124.8人でした。これを分かりやすく言い換えると、1年間で脳梗塞を発症する人は、40代ではおよそ1800人に1人、50代ではおよそ800人に1人という計算になります。年齢が比較的若くても、脳梗塞のリスクはすでに無視できない水準にあるのです。
60代になると、脳梗塞の発症率はさらに大きく上がります。60~69歳では年間10万人当たり370.6人で、およそ270人に1人の計算になります。たしかに40~50代のほうが60代より発症しにくいのは事実ですが、「ほとんど起こらない病気」と考えるのは適切ではありません。
しかも、2018年の『Lancet Neurology』のレビューでも、18~50歳の虚血性脳卒中は増加傾向にあることが指摘されています。つまり、脳卒中の予防は60代になってから始めればよいものではないのです。
脳梗塞の「前兆」は? 絶対に見逃してはいけない初期症状
脳梗塞は、必ず前兆があるとは限りません。しかし見逃してはいけないサインがあります。その目安として知られているのが、「BE-FAST(ビー・ファスト)」です。脳梗塞や脳出血などの脳卒中の発生を早期に発見し、一刻も早く救急要請につなげるための国際的な啓発標語です。
- B=Balance:体のふらつき(突然ふらつく、まっすぐ歩けない)
- E=Eyes:目の異常(突然見えにくくなる、視野が欠ける、二重に見える)
- F=Face:顔の麻痺(顔の片側がゆがむ)
- A=Arm:腕の麻痺(片腕・片脚に力が入らない、しびれる)
- S=Speech:言語の障害(ろれつが回らない、言葉が出ない、相手の言葉を理解できない)
- T=Time:発症時刻の確認と緊急通報(1つでも上記症状があれば、すぐに119番を呼ぶ。発症時刻を控えておく)
特に重要なのは、症状が突然起こることです。たとえば、会話の途中で急に言葉が出なくなることがあります。突然、片方の手に力が入らなくなることもあります。また、急に片側が見えにくくなることもあります。
いつもと明らかに違う突然の神経症状がみられたときは、年齢にかかわらず脳卒中を疑う必要があります。さらに、原因がはっきりしない突然の激しい頭痛も、くも膜下出血などでみられる重要なサインです。
異変が数分で治まっても要注意! 「TIA」とは
脳梗塞の前兆が見落とされやすい大きな理由の一つが、「症状が数分で自然に治まることがある」点です。「10分ほど右手が動かしにくかったけれど、元に戻った」「一瞬だけ言葉が出なかったけれど、今は普通に話せる」といったことが起こります。
症状が自然に消えてしまうと「もう治ったから病院に行かなくてもよさそうだ」と考えてしまいがちです。しかし、これらは「TIA(一過性脳虚血発作:Transient Ischemic Attack)」の可能性があります。一時的に脳の血流が悪くなり、脳梗塞と同じような症状が短時間だけ現れる状態です。
米国心臓協会(AHA)の科学声明では、TIA後90日以内の脳卒中リスクは最大17.8%に達し、その約半数は最初の48時間以内に起こるとされています。つまり、「治った」は安心材料ではなく、むしろ本格的な脳梗塞を防ぐための最後のサインかもしれないのです。日本脳卒中学会のガイドラインでも、TIAを疑った場合にはできるだけ速やかに原因を評価し、脳梗塞予防の治療を直ちに開始することが推奨されています。
生活習慣の工夫で予防! 40~50代から始めたい生活改善のポイント
もちろん、脳梗塞は起こさないに越したことはありません。前兆に気づくことも大切ですが、何よりもまず重要なのは、日ごろからの予防です。
世界32カ国、約2万7000人を対象にしたINTERSTROKE研究では、高血圧、喫煙、運動不足、食生活、糖尿病などの10の改善可能な危険因子で、脳卒中の人口寄与割合のおよそ90%を説明できると報告されています。つまり、こうした基本的な生活習慣や健康管理を見直すことは、脳梗塞の予防につながる可能性があります。しかも、この影響の大きさは55歳以下でも92.2%、55歳超でも90.0%と、年齢によって大きくは変わらないのです。
脳梗塞は、高齢になってから意識すればよい病気ではありません。40~50代のうちから前兆を知り、日ごろからの生活習慣病のケアや基本的な生活習慣の見直しに目を向けることが大切です。脳梗塞を他人事にしないことが、予防の第一歩になります。
■参考文献
1.Hiroshi Yatsuya,Kazumasa Yamagishi,Yuanying Li,et al.Risk and Population Attributable Fraction of Stroke Subtypes in Japan.J Epidemiol.2024 May 5;34(5):211-217.
2.Martin J O'Donnell,Siu Lim Chin,Sumathy Rangarajan,et al. Global and regional effects of potentially modifiable risk factors associated with acute stroke in 32 countries (INTERSTROKE): a case-control study.Lancet.2016 Aug 20;388(10046):761-75.







