暮らしのお金

「人に迷惑をかけない老後」は本当に美徳といえる? 誰にも頼らず強がる人ほど「損をする」理由

「できるだけ人の世話になりたくない」と考える人は少なくありません。しかし高齢期は、上手に頼ることが暮らしを豊かにする場合もあります。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

All About 編集部

「All About」は、マネー・暮らし・住宅・グルメ・旅行・健康など多彩な分野で、その道のプロ(専門家)が、日常生活をより豊かに快適にするノウハウから業界の最新動向、読み物コラムまで、多彩なコンテンツを発信する日本最大級の総合情報サイトです。

人に頼ることは、本当に避けるべきなのでしょうか。※サムネイル画像:PIXTA
人に頼ることは、本当に避けるべきなのでしょうか? ※画像:PIXTA

自立した生活を続けたいと思っていても、年齢とともに誰かの助けが必要になる場面は増えていきます。そんなとき「頼らないこと」にこだわる必要はあるのでしょうか。

高齢者専門の精神科医である和田秀樹氏の著書『老いの品格 品よく、賢く、おもしろく』では、無理な強がりを手放し、年齢に応じた心地よい暮らしを実現するための心の持ちようを提案しています。

今回は本書より、周囲の人や便利なサービス、道具を賢く頼る「成熟した依存」という生き方のススメについて一部抜粋して紹介します。

目次

「人に頼らないこと」は本当に美徳?

人に頼らないことは美徳のように思われがちですが、高齢になれば誰もが人に頼らざるをえなくなります。足腰が弱ってきても自立生活にこだわっていると、転倒して骨折し、それをきっかけに寝たきりになるといったリスクも高まります。

そこは意地を張らず、素直に公の世話になることを考えたほうがいいのです。介護保険や公的な福祉サービスを利用することは、当然の権利なのです。

欧米が日本と大きく違う点の一つは、払った税金の元をとろうという国民の意識が強いことです。そのため、北欧の国々のように、税金が高くてもそのぶん手厚い福祉が受けられるのであれば、国民は不満をもちません。

最近、イギリスなどでは、払った税金を福祉で返してもらうという発想は財政のパンクや社会の停滞を招くとする議論もあり、自立文化にシフトしてきているようですが、それでも“元をとる”という意識は根強く、選挙でも争点になります。

また、北欧の国々の場合、労働者が解雇されても国の福祉で生きていけるため、産業の転換が比較的容易にできるという面もあります。

たとえば、フィンランドのノキアは、かつて世界最大の携帯電話端末メーカーでした。ところが、携帯電話が売れなくなったときに、従業員を大量に解雇して別の事業に転換し、生き残りを図る道を選ぶことが可能でした。

「福祉は個人のためならず」という側面があります。人に頼ってはいけないと考える人は、体が弱ってきたときになるべく公の世話にならずにすむよう、お金を貯めようとします。でも、それによって消費不況が起こり、結果的に国にとっては不利益となる可能性があります。

大切なのは「依存しないこと」ではない

大切なのは、依存しないことではなく、「成熟した依存」ができるようになることだと私は思っています。人に頼るかわりに何かを返す。ギブ・アンド・テイクというより、実質的には「テイク・アンド・ギブ」ができればいいと考えます。

たとえば、公の介護サービスに頼ることで、家族の介護負担が減って共倒れにならなくてすみます。もっとシンプルなことでいえば、他人に何か親切にしてもらったとき、「ありがとう」のひと言を返すだけで、相手の自尊心を満たすことができます。

高齢者の場合、病気で寝たきりになってしまった、意思疎通ができないなど完全に一方的な依存というものも存在しないわけではありませんが、通常は一方的に依存しているように見えて、相手も心理的に満たされるなど、なにかしらのものを得ています。

すごく勉強ができる優等生と、その優等生にいつもノートを借りにくる劣等生がいるとして、後者が一方的に前者に依存しているかといえば、そうとはかぎりません。その劣等生に感謝されたり、気前よくノートを貸す人間性を称賛してもらえたりすることに、優等生は満足感を覚えているかもしれないのです。

相手に直接返すかたちではなくても、他者に依存することによって、そのニーズを満たすための雇用が生まれるということもあります。自分が依存することで、世の中全体としてはギブ・アンド・テイクで収支が合い、それでまわっていくならいいと考えてみてください。

杖や補聴器に頼ることも「上手な依存」

依存という点では、他者だけでなく道具への依存というのもあるでしょう。

高齢者の多くが杖を使うことや補聴器を使うこと、おむつを受け入れることに抵抗があるようです。でも、それによって転倒のリスクは下がるし、コミュニケーションはとりやすくなるし、トイレを探す必要がなく自由に行動ができるという側面もあります。そのほうが高齢者のQOL(生活の質)も上がります。

今後、自動運転が実用化されても、そんな車に乗りたくないと思う方もいるかもしれません。でも、自分で運転することにこだわるより、はるかに安全で快適に移動できるのも事実です。

素直に依存したほうが、余裕ある高齢者になれる気がします。成熟したというだけでなく、上手な依存というのもすてきな高齢者のあり方につながるのではないでしょうか。

『老いの品格 品よく、賢く、おもしろく』(和田秀樹/PHP研究所)
『老いの品格 品よく、賢く、おもしろく』(和田秀樹/PHP研究所)

著者:和田 秀樹(精神科医)
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、35年近くにわたり高齢者医療の現場に携わっている。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

カテゴリー一覧

All Aboutサービス・メディア

All About公式SNS
日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
公式SNS一覧
© All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます