
高校数学の最難関レベルに位置する、東大と京大の数学。ところが、問題の「解かせ方」に注目すると、両校の個性は驚くほど異なります。
『東大・京大入試で培う 多面的に物事を深く捉える複合的思考力』(西岡壱誠/東大カルペ・ディエム著)では、英語・数学・国語など主要科目の問題を比較しながら、両校がそれぞれどのような学生を求めているのかを解き明かした一冊です。
今回は本書から一部を抜粋し、数学の出題傾向の違いと、そこから浮かび上がる両大学の求める学生像に迫ります。
東大と京大で大きく異なる「問題の作り方」
数学は、英語や国語のように、問題の中身が大幅に違うということはなく、制限時間も問題の分量も、ほぼ同じです。理系が150分で6問を解くのは同様。文系は東大が100分で4問を解くのに対して京大は120分で5問を解きます。
全問完答は難しいため、難易度を見極めて解く順番を決める必要があり、完全に満点をもらう大問と部分点狙いの問題を見極めて解く方式になります。微分積分もあれば、数列もあり、図形も出る。扱っている数学自体は、高校数学の延長線上にあります。
ですからあまり大きな差があるわけではないのですが、中身の思想に関しては、数学にも東京大学と京都大学の間にはっきりとした違いがあると言われています。その最大の違いは何かと言われれば、自分は「誘導があるかどうか」だと思います。
「どうやって解かせようとしているか」という設計思想が、東大と京大では大きく異なっているのです。
東大数学は、複雑に見えてヒントが隠されている?
東大の数学は、新しくて斬新な問題を、誘導つきで解かせるのが大きな特徴です。一見すると問題文が長く、設定も複雑で、「何をさせたいのかわからない」と感じる問題が多い。ですが、よく読むと、途中の小問や条件が、少しずつ答えの方向へと受験生を導いています。
つまり東大数学では、「この誘導は、どこへ連れていこうとしているのか」を読み取れるかどうかが、極めて重要になります。
計算量が多い問題も少なくありませんが、それは単なる計算力を見たいからではありません。枝葉の情報を整理し、数理としての本質を抜き出せるか。その力を測るために、あえて設定をややこしくしているのです。
また、東大の解答欄は比較的コンパクトです。これは「答えに至るまでの道筋を、簡潔に表現できているか」を強く意識しているからでしょう。遠回りな力技ではなく、「問題を端的に捉えられているか」まで含めて評価しているのが東大数学です。
誘導を読み取り、限られた時間の中で最大限の点数を取りに行く数学だと言えます。時間内に頭の回転をいかに速くできるかというのは、英語とも似ていますね。
京大数学は、「どう解くか」を受験生に委ねる
一方で、京大数学はまったく逆の方向に振り切っています。まず、誘導がほとんどありません。問題文は比較的シンプルで、「何を問われているか」はわかりやすい。そして、誘導がないからこそ、「どう解くか」は、ほぼ完全に受験生に委ねられています。
たとえば、1つの問題に対して、ベクトルを使って解くのも、座標を置くのも、式を用いるのも、図形的に考えるのも、自由です。東大数学は解答の方向性が1つに定まる場合が多いのに対して、京大数学はどの道具を選ぶかが自由であり、その選択自体が答案の評価対象になります。
計算そのものが極端に大変なことは、実はあまり多くありません。場合によっては、適当に計算しても数値だけは出てしまう問題もあります。しかし、きちんと論理が通っていなければ、容赦なく減点される。これが京大数学です。
京大が見ているのは、「その解法は、どんな発想に基づいているのか」「直感なのか、論理なのか、それを自分の言葉で説明できているか」という点です。
また、実はあまり知られていませんが、京大数学の解答用紙はかなり自由度が高いです。問題用紙には、次のような注意書きがあったことがあります。
「解答は問題番号に対応する解答用ページに書くこと。それ以外のページに書かれたものは採点の対象としない。ただし、解答用ページに続きをはっきり示した場合は、見開きの隣接する計算用ページを解答用ページの続きとして使用してもよい。その場合、解答用ページに『計算用ページに続く。』旨が明示されたときに限って、計算用ページに書かれているものも解答の一部として採点する。」
つまり、年度にもよりますが計算用ページに解答を書いてもOKなのです。これは入試としてはかなり珍しい対応で、「考えた過程を、できるだけ自由に書いてほしい」という京大の姿勢がはっきり表れています。
数学に表れた、東大と京大の学生像の違い
数学の入試問題を見ると、両大学がどんな学生を求めているのかが、かなり鮮明に見えてきます。
東大が求めているのは、高校卒業段階で、ある程度完成された数学力を持ち、それを安定して運用できる学生です。誘導を正しく読み取り、計算ミスを抑え、時間配分まで含めて戦略的に点を取りに行く。いわば、「完成度の高い学生」を選抜している印象があります。
一方で京大が求めているのは、未熟でもいいから、自分なりの考えを持ち、それを論理として表現しようとする学生です。多少不格好でも、遠回りでもいい。考え続け、その思考を他者に伝えようとしているかどうかが評価されます。
よく「数学は、ひらめきか論理か」という議論がされますが、東大数学と京大数学の違いを見ていると、この問いに対する両大学のスタンスの違いがよく表れているように思います。
東大数学は、どちらかといえば練習の度合いを見ている入試だと言えるでしょう。
数学には基本的に「答えは1つに定まる」という性質があります。東大はその数学の良さを最大限に活かし、計算ミスをせず、問題文や誘導の意図を正確に読み取り、与えられた条件を過不足なく使い切れるかどうかを問うています。
十分に演習を積み、典型的な思考の流れを身体化しているか。そうした完成度の高い論理運用能力が重視されている印象です。
一方で京大数学は、より想像力=ひらめきを重視しているように見えます。
誘導が少ない分、どこから手をつけるのか、どの道具を選ぶのかは受験生次第です。問題を見た瞬間に、「こう考えられるかもしれない」「この方向で攻めてみよう」と発想できるか。その直感を、あとから論理として丁寧に組み立て直せるかが評価されます。
つまり、東大は「論理を正確に運用する数学」、京大は「発想から論理を立ち上げる数学」。これをそれぞれ見ていると言えるでしょう。
ただし、どちらが本当に数学的か、という話ではありません。
計算ミスをせず、意図を読み取り、確実に答えに到達する力もまた数学的ですし、自由な発想から道筋を作り上げる力もまた数学的です。東大数学も京大数学も、違う形で数学の本質を問うている。その違いを知ることは、自分がどんな数学の考え方に強みを持っているのかを知る手がかりにもなるはずです。
著者:西岡 壱誠(作家/カルペ・ディエム代表)
現役東大生を中心に活動する学術・教育プロジェクトチーム、カルペ・ディエム代表。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。







