
「ずっと同じ部署で働いてきた」「管理職やリーダーを経験したことがない」。こうしたミドルシニア女性は決して少なくありません。45歳以上の女性正社員の約4割が入社以来一度も異動経験がないなど、キャリア形成や能力開発の機会に男女差がある実態が明らかになっています。
『女性たちの定年後ーお金・仕事・暮らしのリアル』(坊美生子著)では、女性のキャリアを阻む企業の雇用・育成の仕組みを解説しています。今回は本書から、職務経験や研修機会に生じている男女差の実態と、その構造的な要因について紹介します。
狭められてきた女性のキャリア
ミドルシニア女性のキャリアについて、結論を先に述べると、その特徴は、ミドルシニア男性に比べて職務範囲が狭く、キャリア形成が乏しいという点にあります。21世紀職業財団の調査で、50代正社員の職務経験を男女別にみると、「他部門への異動」「出向・転籍」「転居有の国内転勤」「全社的な仕事」などで、軒並み女性のほうが低いことが分かりました。

画像出典:『女性たちの定年後ーお金・仕事・暮らしのリアル』
このような職務経験の男女差を招いた大きな要因は、男女雇用機会均等法を機に導入された「コース別雇用管理制度」のもと、いわゆる「総合職」と「一般職」に分けて、採用時に労働者をふるい分けたことです。何度か述べていますが、特に現在の中高年世代の女性は、家庭責任が大きいことから、採用時に一般職を選ぶ人が大半でした。その結果、与えられる職務が限定的になり、ジョブローテーションも少なくなりました。
日本の多くの企業では、長期雇用を想定する社員には、数年おきにジョブローテーションを繰り返し、配置後にOJT(実務を通じて行なう社員教育)で能力開発し、さらに複数の部署を経験させることで幹部候補として育成してきました。
したがって、異動経験の少なさは、能力開発不足に直結すると同時に、役職登用の少なさにもつながります。女性は男性に比べて「全社的な仕事」の経験が少ない点も、難易度の高い職務や、責任の重い職務を経験させて育成していく、企業の教育システムの対象外となってきたことを示唆しています。
45歳以上の4割が「入社以来異動なし」
このようなミドルシニア女性の職務経験の少なさは、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所の共同研究でも明らかになりました。共同研究では、大企業に正社員として勤める45歳以上の女性1326人に調査した結果、「転勤を伴う異動」と「転勤を伴わない異動」のいずれも経験がない方は約4割に上りました。つまり、45歳以上の女性正社員の約4割は、入社以来、ずっと同じ部署で働いていることになります。
また、「チームリーダー」の経験をしたことがある女性も約3割にとどまりました。ミドルシニア女性の経験不足、企業による育成不足を表していると言えます。
キャリア形成支援も不足している
前項でミドルシニア女性は男性に比べて職務経験が少ないことを述べましたが、配置を通した育成だけではなく、面談や研修を通したキャリア形成支援も少ないことが分かっています。このような企業の姿勢は、定年や定年後に向けた能力開発の差にもつながるので、詳しく解説したいと思います。
21世紀職業財団の調査では、50代正社員のうち「上司とのキャリア面談」の経験がある人は、男性が約5割に対して女性が約4割、「キャリアデザイン研修」の経験がある人は男性が15.8%に対して女性が10.5%となりました。そもそもキャリア形成支援を受けたことがない人は、男性が26.7%に対して女性が37.1%に上りました。
特にキャリア研修は、これまでのキャリアを棚卸しをして見つめ直し、マインドをリセットして、これからの働き方を本人に考えてもらう上で有効だと考えられますが、定年を前にした50代女性は、50代男性に比べて、このような支援を受ける機会が少ないということです。
しかし、当のミドル女性たちが、そのようなキャリア支援を望んでいなかったのかと言うと、必ずしもそうとは言えません。筆者らの共同研究で、ミドルシニア女性に職場の研修受講経験について尋ねると、実務以外の研修の受講経験がある人は1~3割にとどまりましたが、「経験はないが、希望している」層が約1割から2割弱いることが分かりました。
つまり、本人は希望しているにもかかわらず、職場の受講条件などによって受けられなかった女性もいるということです。
著者:坊 美生子(ニッセイ基礎研究所 准主任研究員)
1978年、福井県生まれ。ニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任。神戸大学大学院国際協力研究科修了。2002年、読売新聞大阪本社入社。記者として労働問題や地方行政などを担当。2017年より現職。主な研究分野は、中高年女性のライフデザイン、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー(老年学・高齢社会研究)。特に、日本のジェンダーギャップ解消と女性の自立を目的として、中高年女性の雇用関連の調査研究に力を入れている。






