
食事のマナーについては本来、ルールはあるものの、なかなかみんなが完璧にできるとは限らないもの。本人は長年の習慣に則って食べているだけなので、他者が気にしているとさえ思わないこともあるかもしれない。
義両親との食事会が苦痛
電車を乗り継いで1時間ほどのところに住んでいる夫の両親と、月に1度は食事をすることにしてきたというコズエさん(44歳)。12歳と10歳の子どもたちが忙しくなってきたのだが、それでもなんとか月1でと義両親に懇願されている。共働きで日ごろは接点がもてないので、コズエさんも断り切れない。
「夫の実家に行くか、あるいは中間地点で外食するか。月によって変わりますが、私にとってはいずれにしてもとんでもなく苦痛をともなう行事なんです」
なぜなら夫の両親の食べ方が、どうしても生理的に受け入れられないから。結婚前に夫の実家にあいさつに行ったときから驚きの連続だったそうだ。
「その日は寒いから鍋にしたと言われたんですが、初対面の私がいるのに直箸だった。私は友人とでも直箸は無理なタイプ。夫が気づいて、取り箸やお玉を用意してくれたんですが、義両親ともに『なんだか他人行儀でめんどくさい』と。いや、他人でしょうがと思いましたよ」
義父がたてる音、義母の手づかみ
夫の父親はせっかちで、食器に直接口をつけて「かっこむ」ことが多い。その際、食器に料理をかき集めるため、カチカチガチガチと盛大に音を立てる。クチャラーではないのだが、箸と食器の派手に当たりあう音がコズエさんは苦手だ。
「義母はわりと手づかみが多いんですよ。フライとか天ぷらは手づかみ。驚きましたね。夫に『どうしてお箸を使わないんだろう』と言ったら、『さあ。昔からそうだったかどうかも覚えていないけど』って。手が痛いわけでもなさそうなのに。子どもたちが小さいころはまねしたので、けっこうキツく叱りました。そうしたら次のとき、『おばあちゃん、手づかみはダメだよ』って。でも義母はどこ吹く風。『おばあちゃんはいいの』と手づかみをやめようとしなかった」
一事が万事。そういうがさつさがコズエさんには耐えられないのだという。
2カ月に1度にしてもらったら
上の子が私立中学を受験するため、今年に入ってからは食事会を2カ月に1度にしてもらった。食事会がない月、コズエさんは心身がとても伸びやかなことに気づいた。明らかに食事会は彼女にとって大きなストレスなのだ。
「2カ月ぶりに会うと、義父母はとてもうれしそうなんですが、はしゃぐせいか、いつもよりマナーがなってない。『これ食べな』と、箸で皿を子どもたちの方に押したり、乗り出して話を聞こうとするから袖が料理についたり。義母にいたっては片手で小鉢をつまむように持って、もう片方の手で中身をつまんだり。『おいしいわよ、もっと食べなさい』と、その小鉢を子どもに押しつけてくる。とにかく騒々しいし、私から見たらやりたい放題。平気でこぼすし、口にものを入れてしゃべるし」
間があいているからはしゃぐ気持ちも分かるし、義両親もどんどん年老いているからこぼすのも仕方ないと分かってはいるが、やはり心穏やかではいられない。
それでも行かなければいけないのか
とうとう先日は「具合悪いから、子どもたちを連れて行ってくれないかしら」と夫に言ってみた。すると上の子が「お母さんが行かないなら私も行かない」と言いだし、下の子も「僕も行かない」と続けた。
「子どもたちに直接聞いたことはなかったんですが、二人ともどうやら行きたかったわけではないみたい。私の気持ちを忖度(そんたく)しているのかもしれませんが」
夫は「もういい」と一人で出かけていった。帰ってきても不機嫌なままだった。話し合った方がいいのは分かっているが、コズエさんからその件に触れるのは恐怖だという。
「正直言うと、食事会はやめたい。でもさすがにそういうわけにもいかないのかなとも思うし……。食事をせずに義両親の家を訪ねて短時間で帰ってくるというなら、まだ気が楽なんですが、それを夫がよしとするかどうか」
コズエさんの実家は遠方のため年に1、2回しか帰ることができないが、義実家に比べれば食事マナーはきれいな方だと自負している。夫にとっては、「たいしたことじゃない」という問題も、コズエさんには心身に影響するような重大事だ。どうしても相いれない生理的な問題だからこそ、解決策は見えてこない。このままだと夫との関係にも亀裂が入りそう、かといって我慢しきれない。その狭間でコズエさんは揺れている。







