
夫婦だからといって何でも話せるわけではない。夫がひたすら秘密にしていることを知ってしまったとき、そしてそれが家庭にとって重大事由だったとき、妻としてはどうしたらいいのだろうか。
夫の様子がおかしいとは思っていたけれど
「うちの夫はあまり『かまわれたくない人』なんです。だから私は世話女房的なことはほとんどしない。共働きだし、生活費もほぼ折半、自分のことは自分でするのが基本でした。ただ、子どものことに関しては、きちんと話し合って決めていこうと約束していました」
結婚して17年、高校生と中学生の二人の娘がいるクミさん(48歳)。3歳年下の夫はふだんは淡々としているが、根は心優しい人だ。クミさんや娘たちが体調を崩すと、薬を買いに行ったり病院に連れていってくれたり、なにくれとなく心配し、行動に移してくれる。
「全てを理解しているわけではないと思っていたけど、分かり合えているところは大きいと思っていました。去年の暮れから年明けにかけて、夫が悩んでいるような気はしていたんです」
夫はふだん、何かあっても悩んでいる様子は見せない。しばらくたって相談が必要だと判断すれば話してくれていた。だから年末年始に夫がふっと心ここにあらずという表情を見せたのが気にはなっていた。
嫌な予感が……
「でもきっといつかはきちんと話してくれると思っていたし、年明けは普通に仕事に出かけていたから、あれは私の思い過ごしかなと感じていました。しかも私は年明けから多忙で、『定時で帰れるよ』という夫の言葉に甘えて、週の大半は夫が夕食を作ってくれていたんです」
年が明けて最初の給料日、夫はいつものように「生活費」の封筒に決まった額を入れてくれた。ただ、夫が2つ先の駅前の公園でぼんやりしていたと近所の人に聞いたときは嫌な予感がしたという。
その後、上の子がたまたま課外授業である場所へ行ったとき、「お父さんが炊き出しに並んでいるのを見た」と言った。まさか、人違いよとつぶやきながら、クミさんは「やっぱり」とも思ったという。
夫には聞けないまま
翌月も生活費はきちんと封筒に入っていた。だが夫の様子はますますおかしくなっているように思えてならなかった。
「『疲れているみたいだけど大丈夫?』と声をかけたことがあるんです。夫は『うん。このところ忙しくてさ』って。でも夜中に変にうなされていたりもする。心配になって、とうとう携帯をのぞいてみたんです。すると私も知っている夫の先輩から『どこか見つかったか?』『家族には話したのか』などのメッセージが入っていた。ああ、やっぱり会社を辞めたんだと悟りました」
その瞬間、思ったのは「どうして夫は私に話してくれないのだろう」ということだった。夫のプライドは分かる。共働きの妻に慰められたらやるせないだろう。だが、対等な関係でやってきたのだから、話してくれてもいいのではないかとクミさんは思った。私のことを信じていないのだろうか……。
「二人で働いてようやく回っている家計ですから、生活費をどうしようとは思いましたが、それ以上に、自分が夫に信頼されていないのかもしれないということがショックでしたね」
その後、たまたま子どもの教育のことで夫と口げんかになりかけた。夫が「家族というものは」と偉そうに言い始めたので、クミさんは思わず「あなた、私に隠していることがあるでしょう」と詰め寄った。夫は何も言わずに寝室へと消えた。
「夫の口から真実を聞きたかったけど、心配が先に立って、夫にメッセージを送ってきてくれた先輩に連絡してみました。彼は『やっぱり奥さんには言ってなかったんだ』と。どうやら夫は上司の仕事のやり方に疑問をもって告発、閑職に飛ばされて耐えられなくなって辞めたようです。だから社内でも同情が集まったと。そんな骨のある辞め方をしたのなら、言ってくれればよかったのに」
一緒に乗り越えたいと思っているのに
だがその後、クミさんの心を占めたのは、やはり今後の子どもたちの学費であり、買ったばかりの家のローンの問題だった。経済的には、どうしても二人で働く必要があった。
「仕方ないので自分から夫に言いました。会社、辞めたんじゃないのって。夫は黙っていましたが、『自分のことは自分で決着つけるよ』と一言。何でも自分だけで抱え込まないでよ、私たち家族でしょと言ったら、『オレをさらにみじめにさせないでほしい』って。そういう意味じゃないの、必要があれば何でも話し合ってきたじゃないと言っても、とにかく話しかけるなオーラがすごくて」
発覚してから5カ月がたつが、夫の再就職はまだ決まっていない。娘たちは薄々察しているようだが何も言わない。ただ、上の子が「私、大学に行けるのかな」とつい先日、ポロリと言った。もちろんよ、何も心配しないで頑張ってとクミさんは笑顔で答えた。
「夫はたぶんハローワークなどには通っていると思うんですが、今も毎日、出勤しているようなふりをしています。その姿がなんだかせつなくて。もう意地を張らなくてもいいのに」
一緒に乗り越えたいと思っているのに、心を通わせない夫。クミさんはこの高い壁をどうやって打破しようか、打破できない場合、夫とどうやって付き合っていこうかと日々考えているという。







