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専門家は「ほぼゼロ」、市町村で深刻化する人材不足。クマ被害拡大を止められない行政の手落ち

クマ被害拡大の理由の一つに、行政における野生動物問題の専門家が極めて少ないという実情があげられます。こういった状況が各市町村にどのような事態を招いているのか。専門家の人材不足による影響を解説します。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

専門家はほぼゼロ。クマ被害拡大を止められない ※画像出典:PIXTA
専門家はほぼゼロ。クマ被害拡大を止められない ※画像出典:PIXTA

なぜクマ被害が止まらないのか。そこには各市町村における野生動物問題の専門家不足が影響しています。

クマの生態を研究している小池伸介さんの著書、『クマは都心に現れるのか?』では最新のクマ情報を詳しく解説。

今回は本書より一部を抜粋し、行政の人材不足による被害深刻化の実態に迫ります。

目次

専門知識を有した行政職員の欠如

クマ問題をはじめとする野生動物問題が解決できない根本的な理由の一つが、行政に野生動物管理の専門知識を有した人材がいないことである。環境省が公表している統計によれば、都道府県の野生動物担当職員のうち、大学時代に野生動物管理を学んだ、あるいは専門的に勉強したという人は、わずか6%しかいない(環境省資料:専門人材について)。

つまり94%の職員は、専門的な教育を受けていないのである。ほとんどの担当職員は、林業職や造園職、あるいは一般行政職として採用された人で、人事異動でたまたま野生動物担当に配置されただけである。

特に深刻なのは市町村レベルの人材状況である。市町村では専門知識を持つ職員の割合はさらに低く、ほぼゼロに近いであろう。また、市町村の担当者は、鳥獣対策だけでなく、農業、林業、観光など複数の業務を兼務している場合が多い。

しかし、どこかで聞いた台詞だが、問題は現場で起きる。ある集落でクマがゴミを(あさ)ったという通報があったとき、最初に対応に来るのは市町村の職員である。ところが、その職員には専門知識がない。どう対処すればよいかわからないため、都道府県の担当者に問い合わせる。

しかし、都道府県の担当者も専門知識がないため、明確な指示を出せない。こうしているうちに、どんどん被害が大きくなっていく。これが現在の状況である。

専門家がいることで防げる被害拡大

もし都道府県の担当職員が、野生動物管理の専門的な知識を持ち、人事異動のないパーマネント(恒久配置)の専門職員であればどうだろうか。市町村の職員は、何か問題が起きたときに「あの人に聞けば教えてくれる」という信頼できる相談相手を持つことができる。

また、その専門職員が現場を一目見て「これは誘引物が原因だから、ここに電気柵を設置しなさい」「カキの木を伐採しなさい」「ゴミ捨て場をこう改善しなさい」など即座に的確な指示を出すことができれば、被害が出る前に予防的な対策に時間と労力を割くことができ、被害が出始めても初期段階で鎮火できる。

実は、1999年に鳥獣法が改正された際、付帯決議として「都道府県に専門的人材を配置することや研究機関の設置などに国が支援する」と書かれた。しかし、四半世紀の間、野生動物管理の基礎となる懸案事項は先送りされ続けた。

その結果、いまだに21世紀型の野生動物管理に変わることができていないのである。

都道府県には公務員として獣医師を採用することが法律で定められている。これは鳥インフルエンザなどが発生した際に、専門知識を持った獣医師でなくては対応できないためである。同様に、少なくとも都道府県には、法律で「野生動物職」のような職種を設けることを規定し、パーマネントのポストを確保し、専門知識を持った職員がきちんと配置される体制を作るべきだ。

そうすることで、市町村の職員との信頼関係が構築され、市町村のクマ対策力も底上げされていく。専門職員の配置は、単なる人員増ではなく、地域全体の対応能力を向上させる鍵なのである。

 

著者:小池 伸介(東京農工大学教授)
1979年、名古屋市生まれ。東京農工大学大学院農学研究院教授。東京農工大学大学院連合農学研究科修了。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。現在は、東京都奥多摩、栃木県、群馬県の足尾・日光山地、神奈川県丹沢山地などにおいてツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究している。2024年よりNGO日本クマネットワークの代表も務める。著書に『クマが樹に登ると』(東海大学出版部)、『わたしのクマ研究』(さ・え・ら書房)、『ツキノワグマのすべて』(文一総合出版)など。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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