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ライバルは「支出2.5倍」、なぜリバプールは少ない補強費で勝てたのか? 元分析責任者が明かす

マンチェスター・ユナイテッドの移籍純支出はリバプールの2.5倍以上。それでもリバプールはプレミアリーグやチャンピオンズリーグを制した。データ分析の第一人者が、スポーツにも企業経営にも通じる「投資対効果」の考え方を解説する。(画像出典:PIXTA)

All About 編集部

リバプールFCの本拠地「アンフィールド」(画像出典:PIXTA)
リバプールFCの本拠地「アンフィールド」(画像出典:PIXTA)

2026年ワールドカップでスター選手が脚光を浴びるなか、クラブ経営の現場では「勝率を最大化する資本投下」の最適解がデータで導き出されている。

プレミアリーグ優勝を果たしたリバプールFCでデータ分析部門を率いた元リサーチ・ディレクター、イアン・グラハム氏の著書『サッカーはデータが10割 最強アナリストが明かすプレミアリーグで優勝する方法』(飛鳥新社)より一部抜粋・編集して紹介する。

給与と勝利にはきわめて強い相関関係がある一方、移籍金の純支出は成功に直結しないという驚きの事実――。資金力で劣るリバプールやスパーズ(トッテナム)がいかにしてビッグマネーに対抗したのか、スポーツビジネスの「投資効率」の正体をひもとく。

目次

「順位の90%」は戦う前に決まっている?

給与と勝ち点には高い相関がある。サイモン・クーパーとステファン・シマンスキーは著書『「ジャパン」はなぜ負けるのか 経済学が解明する サッカーの不条理』(NHK出版)のなかで、給与総額だけでクラブの最終順位の大部分を説明できると指摘している。

プレミアリーグとチャンピオンシップにおける10年間のデータでは、リーグ順位の90パーセント以上が給与総額によって予測可能であったという。この事実は、少ない予算で高いパフォーマンスを目指すクラブにとって大きな難題だ。一見すると、給与と順位のきわめて強い相関を覆す方法がないように思える。

「給与を2倍」にしても勝てない理由

しかし相関があったとしても、給与は成功の「原因」ではない。現在のチームの給与を倍にしたところで、パフォーマンスが飛躍的に向上するわけではない。クーパーとシマンスキーが指摘するように、給与が順位を向上させるメカニズムは、優れた選手をクラブに引き寄せることにある。

優れた選手はアカデミーで育成されるか、移籍で獲得する必要がある。しかし、移籍純支出と成功の相関は遥かに小さい。クラブは移籍に多額の資金を使っても、期待通りの成功を得ることが難しいのだ。

では、なぜ給与とチームの成功は強く結びついているのに、移籍における純支出は(たいてい巨額の移籍は高い給与につながるというのに)あまり関連性がないのだろう?

実は給与と成功の関係は一方向ではなく、双方向的なものなのだ。つまり、高い給与を受け取る選手が成功に貢献する一方で、成功も給与の増加に貢献する。

リバプールが導入した「成果報酬」の裏側

たとえば、ノリッジ・シティのようにプレミアリーグとチャンピオンシップを行き来するチームを考えてみよう。選手契約に昇格・降格条項が含まれていたとすれば、プレミアリーグでは給与が増え、チャンピオンシップでは減る。つまり、成功すれば給与が上がる。

同じようなことは上位チームにも言える。ほとんどのチームは、チャンピオンズリーグの出場権やタイトルを獲得したときにボーナスを支払う。

リバプールでも、クラブの成功に見合った報酬となるようにインセンティブ付きの契約を導入していた。たとえば、チャンピオンズリーグの出場権やタイトルを獲得したシーズンでは、選手の給与が増えている。ドイツでは成功と給与の関係がさらに具体的で、チームの勝ち点に応じた報酬を受け取るという条項が契約書に存在する。

また、給与は選別されるという側面もある。移籍してきた選手が成功すれば、より高い給与が提示され、クラブに引き留められる。一方、成功しなかった選手に昇給の提示はない。運や分析によって優れた選手を獲得したクラブは、そうした選手に長く在籍してもらいたければ、給与を増やしていくしかない。

ライバルは「支出2.5倍」でも勝てたわけ

リバプールにとっては、移籍市場での失敗を改善することが財務パフォーマンスの向上につながることは明らかだった。その部分こそ、費やした額に対する成功割合が最も低い領域だったからだ。

そうして取り組んだ2012年から2023年にかけては、マンチェスター・ユナイテッドの移籍純支出がリバプールの2.5倍以上、マンチェスター・シティも2倍以上となっている。

リバプールの支出はアーセナルやチェルシーと比べても大幅に少なく、スパーズやウェストハムと比べて10パーセントほど、エヴァートンに比べて25パーセント多いだけだった。

それでもリバプールはプレミアリーグやチャンピオンズリーグを制することができ、獲得した選手たちは優れたパフォーマンスを維持し続けた。

コウチーニョ売却に学ぶ「データ経営」

獲得に支払う総支出はアーセナルとほぼ同水準だったが、売却による収益ではアーセナルを大きく上回っていた。たとえば、ルイス・スアレスやラヒーム・スターリングの売却はクラブの選択ではなかったが、フィリペ・コウチーニョの移籍は売却による収益を効果的に活用した好例だった。

また、アカデミーも収益源となり、ライアン・ケント、ハリー・ウィルソン、ネコ・ウィリアムズといった選手が移籍金を生み出し、それぞれのキャリアを成功させていった。さらに、ジュリアン・ウォードやデヴィッド・ウッドファインが統括して成功したローン移籍の戦略も、若手にプロ経験を積ませるだけでなく、移籍市場における彼らの魅力を高める役割を果たした。

リバプールでは給与の総額も大きかったが、それは「成功の結果」でもあった。

私たちの移籍プロセスが機能し始めた2016/2017シーズンから2020/2021シーズンにかけ、リバプールはシーズン平均で83ポイントの勝ち点を獲得した。これはマンチェスター・シティに次ぐ成績だ。

給与は高額ではあったが、マンチェスター・シティやマンチェスター・ユナイテッドよりは低く、チェルシーよりわずかに高い程度だった。この期間の大きな差は選手獲得に支払った金額だった。リバプールの支出はビッグ6のなかでスパーズに次ぐ少なさだった。

給与であろうが移籍であろうが、資金がどう使われるかは本質的には重要ではない。とにかく大切なのは、支出全体に対してパフォーマンスがどうであるかという点だ。

給与が最も低い「スパーズ」の効率化

ファーストチームの選手に対する支出総額で見ると、リバプールはマンチェスター・シティやマンチェスター・ユナイテッドよりも20パーセント以上少なく、チェルシーよりも約5パーセント少なかった。

一方、最もパフォーマンスが低調だったのはアーセナルで、支出はリバプールの85パーセントほどだったが、平均勝ち点は65ポイントにとどまった。

リバプールのほかに、少ない金額で高いパフォーマンスを発揮したのがスパーズだった。2008年から支出の効率化に取り組んでいて、私がスパーズのコンサルタントを務めていた時期の支出パターンは、FSG(フェンウェイ・スポーツ・グループ)体制下のリバプールと似ていた。

2008年から2012年にかけて、スパーズは選手獲得に多くの資金を投じていたが、ベルバトフ、キーン、モドリッチといったスター選手の売却によって支出が埋め合わされていた。この期間はアストン・ヴィラやストーク・シティの方が移籍純支出が多かった。

スパーズとリバプールが違うのは、スパーズの方が給与を低く保ち続けている点だ――ビッグ6のなかで群を抜いて低い給与となっている。

この書籍の執筆者:イアン・グラハム  プロフィール
リバプールFC元リサーチ・ディレクター。ケンブリッジ大学で物理学博士号を取得後、2012年からリバプールFCでデータ分析部門を率いる。プレミアリーグ初となる本格的な分析チームを構築し、選手補強や戦術分析にデータを導入。プレミアリーグ優勝、UEFAチャンピオンズリーグ制覇など、リバプール“復活”の裏側を支えた人物として知られる。

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