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なぜ優秀な分析チームでも投資判断を誤るのか? リバプール元重鎮に学ぶ意思決定の本質

データ上は“年間最大のお買い得選手”だったマリオ・バロテッリ。だが現実は違った。一方で、サラーは割安価格で獲得され、フィルミーノには「支払いすぎ」との評価もあった。リバプール元分析官が語る、数字だけでは見抜けない選手価値とは。(画像出典:PIXTA)

All About 編集部

リバプールFCの本拠地「アンフィールド」
リバプールFCの本拠地「アンフィールド」(画像出典:PIXTA)

2026年サッカーワールドカップ(W杯)の開幕が近づき、世界中のスター選手たちに熱い視線が注がれている。しかし、その才能や「投資価値」を正確に見抜くことは、世界屈指のデータ分析チームにとっても至難の業だ。

名門リバプールFCの黄金期を支えた元リサーチ・ディレクター、イアン・グラハム氏。彼の著書『サッカーはデータが10割 最強アナリストが明かすプレミアリーグで優勝する方法』(飛鳥新社)から、スカウト戦略の舞台裏を一部抜粋・編集して紹介する。

データ上は「年間最大のお買い得」と出たものの、破天荒すぎる問題行動がデータから漏れていたマリオ・バロテッリ。逆に、数式の上では「支払いすぎ」と判定されたものの、のちにクラブの至宝となったロベルト・フィルミーノ――。データ分析の天才が直面した、移籍市場のリアルな難しさに迫る。

目次

「移籍金モデル」が見破ったビッグクラブの投資実態

企業価値を分析するように、選手にも「適正価格」がある。私たちは独自の移籍金モデルを用いて、実際の移籍市場を検証した。

報道された移籍金を私たちのモデルの推定値と比較したところ、それらは非常に妥当な額に感じられた。2015/2016シーズンにおける高額移籍について言えば、マンチェスター・ユナイテッドがアンヘル・ディ・マリアとアンソニー・マルシャルの両選手に対して驚くほど過剰な額を支払っていた。

リバプールも他人事ではなかった――クリスティアン・ベンテケの移籍金は支払いすぎだった。逆に、チェルシーはジエゴ・コスタを推定値よりかなり安いバーゲン価格で獲得していた。

さらに私たちのモデルで見ると、そのコスタよりもコストパフォーマンスが良かった選手がいた。マリオ・バロテッリだ。作成したモデルで検証すると、リバプールは2014年に、「年間最大のお買い得選手」を獲得していたことが分かって驚いた。

データは「年間最大のお買い得」と弾き出したが……バロテッリに潜んでいた盲点

バロテッリは高額な移籍金になるのが当然と言える若手だった。強豪クラブであるACミランに在籍する若手で、しかもレギュラーとしてプレーし、プレミアリーグ、セリエA、チャンピオンズリーグで得点を重ねていた。さらにイタリア代表でも定期的に先発していた。

しかし、バロテッリの移籍金の推定が高額になるのは、情報が不完全だったことに起因する。彼にまつわるデータはすべて、移籍金が非常に高額になることを示していた。それでも、私がモデルに組み込まなかったデータを考えてみると、ACミランが彼を18ヶ月前と同じというバーゲン価格でも売ろうとした理由が見えてきた。

バロテッリは多くの問題行動を起こしてきたのだった。彼はインテル在籍中にライバルであるACミランのユニフォームを着てテレビに出演したり、下部組織の選手に向かってダーツを投げて罰金を科されたりした。

また、浴室で花火に火をつけたり、事故で車を大破させたり、駐車違反で繰り返し罰金を払ったりもしていた。私のスプレッドシートには「室内で花火を爆発させた回数」や「支払った駐車違反金の総額」といった列は存在しなかったが、それでもこの移籍の潜在的リスクは明白だった。

モハメド・サラーを「投げ売り価格」で獲得できた裏事情

移籍金モデルを構築して以降、このモデルと同じような結果を示す学術論文も発表されてきた。スポーツ教育機関「CIES」による研究のなかでは、リバプールの契約が2つ取り上げられている。

ひとつめはバロテッリの移籍で、支払われた額は期待値より64パーセント低かった。安い金額になった要因について、「選手の規律に関する懸念」によるものだと冷静に指摘している。

もうひとつの例はモハメド・サラーの獲得だった。推定値よりも23パーセント安い価格での移籍とされている。このケースでは、ローマがUEFAの財政規則を守るために選手を売却する必要があり、投げ売り状態になっていたのだ。

数式上は「支払いすぎ」のはずが……市場の評価を覆したフィルミーノの“見えない能力”

移籍金や給与の額を説明するのに用いたデータは、どれも選手の本質的な価値を直接的に示すものではない。クラブが真に関心を持つべきは、獲得候補の選手が優れた選手かどうか、クラブのパフォーマンスを向上させるかどうか。そしてその選手がクラブを去る際に移籍金で利益を残していけるかどうかだ。

契約期間、市場価値、過去の移籍金、以前の在籍クラブの強さといったデータは、その選手の能力を推測する手がかりとなる。しかし、これらは選手の本質的な価値を示すものではなく、代用的な変数にすぎないことを忘れてはならない。たとえば、強いクラブに所属していることは、その選手が優秀であることの保証にはならないのだ。

私たちは移籍金モデルを活用して、サディオ・マネやモハメド・サラーのような選手が過小評価されていることを理解した。しかし、自分たちのモデルに基づけば、ロベルト・フィルミーノに関しては「支払いすぎ」だったことになる。リバプールが獲得する直前、ドルトムントは2500万ユーロでオファーした。それは移籍金モデル上でも「適正価格」だった。

だが市場は、彼の怪我への耐性、複数ポジションをこなすユーティリティー性、そしてチームのゴール確率を高める能力を極めて過小評価していた。フィルミーノの移籍金は「支払いすぎ」だったのかもしれないが、それは別の見方をすれば、市場は彼のパフォーマンスの重要な側面を見落として資金を出し渋った一方で、リバプールはそこに喜んで対価を支払ったということだ。

この書籍の執筆者:イアン・グラハム  プロフィール
リバプールFC元リサーチ・ディレクター。ケンブリッジ大学で物理学博士号を取得後、2012年からリバプールFCでデータ分析部門を率いる。プレミアリーグ初となる本格的な分析チームを構築し、選手補強や戦術分析にデータを導入。プレミアリーグ優勝、UEFAチャンピオンズリーグ制覇など、リバプール“復活”の裏側を支えた人物として知られる。

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