
共働きの場合、生活にかかるお金を折半している夫婦は少なくない。付き合っているときから「割り勘が当たり前」の世代なら、当然そうなるだろう。しかし、もともとの所得に差があれば、結婚後は相当額を話し合うべきだ。そしてもちろん、子どもができれば話は別だと思うのだが……。
互いの預金額を知らないままに
マッチングアプリで婚活をしていたイクミさん(35歳)は、4年前、2歳年上の男性と知り合い、付き合うようになった。半年ほどたったころ、どちらからともなく「家庭を持ったら」という話題が出始めた。
「もともと二人とも結婚したいと思って選んだ相手だったから、ある程度、育った環境が似ていたり考え方が近かったりしたんです。一緒にいても気詰まりなところがなかったし、私は彼と結婚したいなと思いました」
気持ちを伝えると、話はトントン拍子に進んだ。ただ、イクミさんが聞くに聞けなかったのはお金の話だった。
彼は有名企業に勤めているが、いつも「給料が安い」と嘆いていた。イクミさんは外資系の企業で年俸制だ。毎年、年俸の交渉に自らあたる。来年の収入が分からないのは不安だが、成果を出せば一気に上昇することもある。
結婚後の生活を話し合った結果
「デートのときはだいたい折半。誕生日にはごちそうする。臨時収入があったからと彼が奢ってくれたこともありました。それは好意と思いやりの範疇(はんちゅう)という感じで、互いに言葉にしなくても納得していたと思います。お金の使い方に関しても、それほど違和感はなかった。1度、私が前から狙っていた靴をセールで買ったと言ったら、彼は『エライ』と。なかなかセールに行けないんだ、面倒でとも言っていました。あんまり節約家過ぎても困るし、浪費家でも困る。そういう意味では、セールに目の色を変えるタイプじゃないんだなと判断していました」
結婚後の生活についても話し合うようになった。とりあえずは賃貸マンションに住むしかないのだが、結婚すれば彼の会社から多少の補助が出ることが分かり、一安心したという。
「家賃は彼、光熱費と家での食費は私、他は自分のことは自分でということで話がまとまりました。あとは実際に生活してみて調整しようと」
二人の生活に関わる支出はオープンにして、月末に調整すればいい。イクミさんは、今までより生活が楽になる分、貯金もできるとホッとした。
子どものためにお金を使おうとしない夫
結局、互いの収入を教え合うことはなく、それぞれどのくらい貯蓄しているかも知らないままだった。
「でも結婚すればいずれは分かると思っていたんですよね」
結婚して半年足らずで妊娠が発覚。つわりがひどかったため、会社と交渉して、それまでより仕事をセーブすることにした。当然、翌年の年俸に影響するが、出産のためなら仕方がないと思った。
病院に通いながら、イクミさんはふと思った。
「病院代や出産費用は誰が出すんだろう、と。それとなく彼に言ったら、『出産費用は助成が出るでしょ。病院にかかってるのはきみだからきみが出せばいいんじゃないの』という答えが返ってきた。いや、でも二人の子どもでしょ。しかも出産費用は助成よりかかるよ。無痛分娩にするつもりだしと言ったら、それは知らないと言われて……」
まるでイクミさんが一人で妊娠したかのような言い方だった。そのくせ、「子どもが生まれるのが待ち遠しいなあ」と喜んではいる。夫の気持ちが分からなくなった。
「産まれてくる子に必要なベビーベッドやベビーカーなども、『そういうのはきみの親が準備するんじゃないの?』と平然と言うんですよ。だんだん不愉快になってきて、『いや、普通は夫の親が用意するでしょ』と言い切ってやりました。このままでは家族3人で楽しく暮らせないと、かなり気持ちが落ち込んでいるとき、彼のお姉さんが来てくれたんです」
義姉はすでに子どもが二人いたので、使わなくなったベッドやベビーカーもくれるという。「あ、でも弟は新しいのを買いたがるかも」とも言ったので、夫に言われたことをそのまま伝えた。
「すると義姉が、何それと怒りだしたんですよ。『あいつは自分の子どもにもお金を使わない気なの!』って。それからいろいろ話してくれました。彼は学生時代から投資に興味があって、おそらく今では億に近いお金を持っているはずだって。『あなたにも話してないの? ちょっと、家の経済どうなってるの』と言われて、生活費も折半だし、出産費用も私持ちだと正直に言いました」
話し合うこともできずあっさり離婚
義姉から夫に話が伝わり、夫は義姉に対して絶縁宣言するほど激怒した。そこから話はこじれていき、結局、イクミさんは出産後、半年もたたずに夫に離婚を切り出した。
「それほどお金があるなら、どうして正直に話してくれなかったのか、産休をとると私が言ったときも『生活費くらいは出せるよね』と威圧的に言ったのもひどいと思う。あなたからは家庭を一緒に作っていこうという気持ちが感じられないと言ったんです。すると夫は『だって独身時代にオレが稼いだお金はオレのものでしょ』と。確かに法律的にはそうですけど、そんなにお金があるんだったら、私を追いつめるようなことを言わなくてもいいじゃないですか。その思いやりのなさが嫌だったんです」
話し合うこともできず、あっさり離婚となった。自分は離婚するつもりはないけど、きみがどうしても離婚というなら養育費だけは出すと夫は言った。
今は3歳の娘と二人で、実家近くのアパートに暮らしている。ふだんはなるべく在宅ワークを心がけ、代わりに1泊程度の出張を増やしてきた。バリバリ仕事をしているが、いつまでこのペースが続けられるかと不安になることもあるという。
「もうちょっと夫に思いやりがあったら……と思うこともありますが、過去を後悔しても仕方がない。夫は娘に会う権利がありますが、まったく会おうとしませんしね。彼が興味があるのはお金を増やすことだけなのかもしれませんね」
最後は切り捨てるようにそう言った。







