
「自分自身が夢中になった経験がないのに、子どもに熱中できるものを見つけてあげられるだろうか……」子育て中にそんなジレンマを感じたことはありませんか。
瀧靖之さんの著書『夢中になれる子の脳』ではQ&A方式で子どもの「夢中」を引き出す育て方を解説。今回は本書から一部を抜粋し、親子で一緒に「夢中になれる好きなこと」を見つけていくヒントをご紹介します。
いい夢中は、シンプルに「楽しい」夢中
Q:夢中になる感覚って、実はよくわかっていません。夢中になったことのない親でも、夢中になる子を育てられるものですか?
A:はい! 育てられます。そして、どんな親御さんでも夢中になった経験はあるものですから、不安にならないでくださいね。
「いい夢中」って何でしょうか? 「いい夢中」を一言で表現すると、「楽しいからやる!」と、自発的に動いている状態のことだと言えます。何かご褒美がもらえるから、といった条件やメリット・デメリットといったことではなく、単純に興味があるからしている、というごくシンプルな状態です。
科学的に言うと、このようなモチベーションは「内発的動機づけ」と呼びます。自発的に何かに取り組んでいくことが身につくと、好奇心がどんどんわいてきます。知識や経験が蓄えられ、ものごと同士が関連して結びつき、「じゃあ、この場合はどうなんだろう?」と疑問などが自然とわいてくる。その循環の中で、どんどんモチベーションを高めていくことができます。
一方で、「○○をしたらお金をあげるよ」といった、ご褒美や見返りを得るために行う活動。これを「外発的動機づけ」と言います。教育で言えば、「テストで100点をとったらおこづかいをあげる」「成績がよかったら褒める、悪かったら叱る」というようなこと。
子どものやる気を引き出す方法としては間違いとも言えないのですが、そればかりになってしまうと、習い事や勉強におもしろさを見出すことが難しくなる場合があります。
ご褒美や見返りをもらえなかったときに、ガッカリする。「そんなことならがんばらなければよかった……」と後悔をする。何より「やらされている」という感覚が強くなり、モチベーションが下がりやすいという特徴もあります。その点、社会では、一般的には「外発的動機づけ」からできている仕組みが多いかもしれませんね。
たとえば、「○○を達成したらボーナスが出る、できなかったらカット」というようなお金の話や、働き方の細かいルールなどがありますが、夢中になる才能を持っていると、多少の理不尽や仕組みの問題などがあっても、そこでつぶされたり、プレッシャーに負けたりせず、自分の道を切り開いていく強さの原動力にもなっていくのです。
好きだったことを思い出してみる
子どもの夢中を考えるうえで、実は一番大事なのは、親自身が夢中になれるかどうか。ここがとても大きなポイントになってきます。そんな話をすると、「自分にはそんな経験がないからわからない……」とか「好きなものがないので難しい……」と感じてしまう方もいるかもしれません。
ですが、そんなことは決してないのです。誰もが、自分の興味のあること、少なからず好きなことを持っています。
たとえば、昔は昆虫採集や自然の中で遊ぶのが好きだった。部活に熱中していた。編みものをしていたら時間を忘れていた……そんな経験を誰もがしてきているはずです。夢中になれない、夢中になったことがないと感じている人は、そのときのことを忘れてしまっているだけなのです。
たとえば、「おいしいものを食べることが好き!」のようなことも、立派な夢中のタネです。子どもと一緒に料理動画を観て、実際にその料理やお菓子をつくってみる。そういう関わり方もできるはずです。試しに、ご自身の好きなこと、好きだったこと、今までやってきた趣味や習い事、仕事、人よりちょっと得意なことなどなど……そうした経験を棚卸ししてみてください。
昔、泳ぎが得意だったな。バイトで褒められたな。一時期プラモデルに大はまりしていたな。ヒーローごっこ(なりきり)が好きだったな。親と行ったキャンプが好きだったなぁ……。絵を観るのが好き、音楽を聴くのが好き……などなど。そうして自分のことを見つめてみると、自分が夢中になれることもわかってくるかもしれません。そうしたら、その体験を親子で一緒にしてみるのです。
子どもも、最初はまったく興味がないかもしれません。まったく乗り気でなかったら、そのときに「○○に一緒に行ったらパフェを食べよう」といった形で提案をしてみてもいいでしょう(適材適所でご褒美を使う分には問題ないのです)。
子どもの「自分らしさ」は、親の姿から形づくられていく
なぜそうまでして、親が好きなことを推奨しているかというと、単純な話。いつだって子どもが一番よく見ているのは、親の姿だからです。
子どもは、当然ながら人生経験がありません。彼らは、マネをし、吸収し、取捨選択をしていくことで「自分らしさ」を獲得していきます。マネして学ぶことが前提なのです。たとえば、せっかく美術館まで来たのに親がスマホばっかり見ていて興味なさそうにしている……となると、子どもにとって「おもしろかった」「楽しかった」という体験につながりづらくなります。何においても、「親が楽しそうな姿」が一番なのです。
そして、もう1つ言及しておくと、もっとも重要なことは、この過程の中で子どもは自分が「美しい」と思うものに出会っていく、ということです。
究極的に言えば、「何を美しいと思うか」ということが好奇心のタネを大きく成長させていく要因になります。自分が美しいものを追いかけている状態。私なりに言えば、それがいい夢中の本質だと言えます。
ただまずは難しく考えず、損得勘定なしでやってみたいことを、考えてみてください。親の好きなことが、子どもの好奇心に火をつける着火点になるのです。
瀧 靖之(たき・やすゆき)
東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長。医師。医学博士。研究室では、脳の発達や加齢、認知機能の変化を、MRIを用いた大規模脳画像解析によって研究している。最新の脳研究と自身の子育ての経験をふまえ、科学的な子育てを提唱。書籍や講演、メディアを通して脳と健康に関する知見をわかりやすく発信している。






