
共感能力の高い人の方が、他者から好かれると一般的には言われている。だが、友達にしろ恋人にしろ夫婦にしろ、「ただ共感していればいい人だと思われる」というわけではないようだ。
共感能力の高いママ友、ついしゃべり過ぎたら
現在暮らす地域に越してきて3年になるマユミさん(44歳)。当時、子どもは7歳と3歳だった。
「同い年の夫と共働きで、上の子は学校が終わったら学童へ行き、下の子は保育園。場所が少し離れているので迎えに行くのが大変なんです。夫と私、とにかくどちらかが迎えに行って夕飯を食べさせる。私の方が残業が多いから、どうしても夫に負担がいきがちで、越してきたばかりのころは関係もギクシャクしがちでした」
そんなとき声をかけてくれたのが、近所のユリサさんだ。同世代で子どもの年齢も近かったが、ユリサさんは専業主婦だった。
「困ったら言って。私は時間だけはあるからと言ってくれたので、本当にどうにもならないときだけ頼っていました。彼女はとにかく優しくて本当に助かっていたし、私が夫のことで愚痴を言っても黙って聞いてくれ、『あなたは間違ってないわよ』『そういうの分かる』と、とにかく共感してくれるので、つい言わないでいいことまで言ってしまって……」
数日後、別のママ友から、マユミさんのところは離婚の危機なのではないかとうわさになっていると聞かされた。どうやらユリサさんがそう言ったらしい。
「もちろん、私がしゃべり過ぎたのがいけないんだけど、分かる分かる、女はそういうとき腹が立つわよねと共感してくれたのに、しかも内緒ねと念押ししたのに、あっけらかんと他人にしゃべってしまうってひどくないですか」
「共感さえしていればいい」と思っているのでは
マユミさんは次にユリサさんに会ったとき、ほとんど話をしなかった。ユリサさんはおずおずと近づいてきて「何かいけないことをしたかしら」と言った。
「内緒にしてと言った話をなぜばらまいたのかと言ったら、『マユミさんが大変そうだったから、みんなに共感してもらおうと思ったの。その方があなたも気が楽になるかと思って』と、本当に心配そうに言うんですよ。それなら内緒ねとは言わないわよと言ったら、みんなにあなたを励ましてもらいたかっただけなのにと半泣きになっていました」
お嬢さん育ちなのか、どこか世間の人の心に疎いところがあり、共感さえしていれば人は自分を嫌わないと思っている節があると、別のママ友もユリサさんを評していた。悪い人ではないんだろうけどと思いながら、マユミさんは距離を置いたという。
きみに話しても仕方がないと夫に言われて
「愛情って、相手がどういう状況であれ受け入れること、心を分かち合うことだと私は思っていたんですよ。でも夫は違ったみたい。つい最近、それが分かりました」
少しふてくされたようにそう言うミホさん(46歳)。結婚して13年、11歳になる一人娘がいる。ミホさんはパートで働きつつ、子育てを優先させてきた。夫と娘にとって居心地のいい家庭を作るのが自分の役目だと信じてきた。
「相手の言うことをまずは否定せずに受け入れる。それが一番大事だと思っていたんです。もちろん娘に対してはそれでいいような気がするんですが、夫はそうは思っていなかったみたい」
先日、夫がふと仕事の話を始めた。いつもはそれほど詳しく話さないのだが、そのときは妙に具体的だった。ミホさんはじっと聞き、「あなたは間違ってない」と言った。すると夫はため息をついた。
「きみに話しても仕方がないとは思っていたけど、僕が求めているのはそんなおためごかしな追従じゃないんだ。きみには自分の意見というものがないのかと、少し怒ったようながっかりしたような口調になって……。だって夫の仕事のことなんて私には分からないし、あなたは間違っていないというのは一番の励ましになると思ったから。そう言うと、もういいよとリビングを出て行ってしまいました」
気持ちを受け入れてもらえなかったのが悲しい
翌日、夫は何事もなかったかのように振る舞っていたが、ミホさんは自分に対して夫ががっかりしたような顔をしていたことが忘れられずにいる。
「私は自分にいろいろコンプレックスもあって、偉そうなこととか論理的に相手を説得するとか、そういうのが苦手なんです。自分の意見なんてたいしたことがないのも分かっているし。それにどんなときでも夫の味方でいたいんですよ。その気持ちを受け入れてもらえなかったのが悲しくて」
数日後、彼女は自分の気持ちを夫に伝えた。夫は「もういいよ、きみの気持ちは分かったから」と少し投げやりに言った。さらに、悲しげなミホさんを見て罪悪感を覚えたのか、「ただ、僕はもうちょっと建設的な意見がほしかっただけ。でももういい」とつぶやいた。
「私は夫の助けにはならないのかとつらくなりました」
精神的に距離が近い場合、信頼しているからこそ本音を言ってほしいと思うこともあるだろう。共感するだけではなく、相手の気持ちをもっと前向きにできるような意見を言えたら、関係はさらに深まるのかもしれない。







